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わたしが「キルケ亭」を知ったきっかけは、ひとりの知人からだった。
最初にその男にあった時、彼の顔色は蒼く、どちらかというと痩せていた。
だが、会うたびに彼はどんどん太っていき、いつの間にか赤ら顔の二重顎で、いつも汗をかいているようになった。
グルメに目覚めたのですね?
そう問いただすと、彼はこっそり、さも重要な秘密を漏らすかのように「キルケ亭」のことを明かしたのだ。
わたしは、彼の紹介で名誉ある会員になることができた。
それから、彼を「キルケ亭」でも何度か見かけた。
必ず隅の同じ席、わたしと目が合うと軽く会釈した。
見るたびに、彼の体重は増えているようだった。
だが・・・そう言えば、しばらく彼の姿を見ていない。
素晴らしい豚肉のローストを堪能して、帰り際に店主が言った。
「お客さまも、ずいぶんと肉付きがよろしくなりましたな」
「これはこれは」
「そんじょそこらの脂肪ではありません。
わが亭の特別な豚肉料理からなる、黄金の脂肪ですから」
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