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 二日目の夜は宿から一歩も出ぬまま明かしてしまった。食事すら忘れていた僕に女将は大そう心配してくれたようだ。悪いことをしたと思う。それでも、僕はこの島にいるうちに原稿を仕上げてしまいたかった。何もかもが鮮明なうちに。  今、僕は帰りの船に揺られている。船頭は行きと同じ男で、僕を見ると片方の眉を吊り上げた。 「なんですか?」  問い掛ける僕に、彼は目を逸らして一言言った。 「いえ……なんだか一昨日より朗らかな顔をしてらっしゃるようでしたので」  僕の胸には出来上がった原稿が。この島で見聞きしたすべてが記してある。  書きながら、ひとつ思い付いたことがあった。嘘か真か、それは単に僕の妄想かもしれないけれど。島に残る時姫伝説――僕が見た過ぎた日の幻は、時を司る女神の采配によるものだったのではないだろうか、と。  真相など知る必要はない。必要なことは、もうこの原稿の中に書いてある。  見事な朝凪が広がっていた。  見上げれば、白い洋館が朝の陽ざしを受けて輝いている。 了
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