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「悦、子……お前が、やっ……のか」
「はい」
「なぜ……だ」
「復讐です、おじ様」
少女は笑う。薄く、紙に写し取ったかのような笑みで。
「おじ様、あたしが病気になったのがいつ頃からか覚えていらっしゃる? あたしはちゃんと覚えています。あたしの十二の誕生会――おじ様が初めておうちにいらしたのは、その前の誕生会のことでしたわね。ねえ、あたしがなんの病気だったのか、どうして教えてくださらないの――本当は病気なんてなかったからなんじゃないの?」
「な、にを……悦子……」
「あたし、気が付いてしまいました。おじ様があたしに毒を盛っていたってこと」
少女は腕を捲ってみせた。骨と皮ばかりになった白い腕だが、幼い少女には似つかわしくない、老人のような黒い斑が浮き上がっていた。
「服薬だと偽って、おじ様は毎日あたしに自分で少しずつ毒を飲むよう仕向けていたんだわ」
僕は昔読んだ推理小説に思い当っていた。
ジュリアーノの、そして老執事のあの症状は間違いなくヒ素中毒のものだった。ヒ素は極少量であれば死に至ることはなく、慢性的な体調不良を造り出すことができるのだ。
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