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 少女の話から察するに、ジュリアーノは少女の十一歳の誕生日のとき、彼女を見初めたのだろう。そして、彼女を手に入れる術を考えた。親子の歳の差がある彼では、悦子嬢を娶ることができまい。せめて養女にと思えど、なんの不自由もない豪商が娘を簡単に手放す訳もなかった。  だから、盛った。毒を。  だから、造り出したのだ。偽りの病を。  嗚呼。憐れなものではないか。少女は卑しい男の欲望によって自由と健康を奪われた。家族と引き離され、病の恐怖に怯えながら暮らす離島での日々は、確実に少女の心を蝕んだ。 「ジュリアーノおじ様……あたし、あなたが憎いです」  振り上げられた切っ先。  抵抗のために突き出された腕は弱々しく、トドメの一撃を遮ることはできなかった。  ドスリ、と嫌な音がして、寝巻の胸元に深々と刺さる鋏。少女はそれを引き抜き、再び男の胸に突き立てた。何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も――……。
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