3.

1/2
前へ
/13ページ
次へ

3.

 突風が吹いた。  咄嗟に顔を覆った僕が顔を上げると、目の前から二人の幻影は消えていた。凶器となった園芸鋏も、真っ赤な血の染みも。  ノイズのような小さな音を聞いた気がした。振り返る。廊下に少女が立っていた――いや、浮いていた。僕は誘われるように部屋を出て、吹き抜けの手摺りに手を置いた。 「……そうか」  後で聞いた話だが、島民が駆け付けた時には、少女は自室のベッドで事切れていたという。服毒自殺だ。その死顔は穏やかで、島民たちは少女の犯行を確信しつつも、どこかその猟奇性を信じきれずに事件は幕を閉じた。 「君は、知ってほしかったんだ。事件の真相を」  自分が貶められてきた悪意の正体を。  少女は薄く微笑んだまま、何も言わずに宙に浮いている。先程までの幻影とは違って、その体には背後の景色が透けてしまっていた。それは暗に、彼女に残された時間がもう少ないのだと示しているようだった。 「いいよ。僕が公表しよう。どれだけの人が信じてくれるかはわからないけど……世迷言だと言われても、僕は君が教えてくれた真実を撤回しない」  手を、差し伸べる。  少女は僕には応えなかった。ただ、小さく微笑んで。  それは年頃の少女らしい、無垢で無邪気な笑みだった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加