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 絨毯を踏み締める。染みひとつない臙脂色は、毛の沈む感触を足の裏へと伝えてきた。頭上に鎮座するスズラン型の照明が朧げな光を投げ掛けているが、部屋は薄暗く、明らかに夜であると感じさせた――まだ、午前中であるはずなのだが。  怪奇である。僕はタイムスリップしてしまったのか? それとも、洋館が抱える過去の記憶へと迷い込んでしまったのだろうか? どちらにせよ、超常の現象を目の当たりにしていることは間違いがなかった。  朽ちかけていたはずの調度品は本来の重厚さを取り戻し、よく手入れされて光沢を放っていた。僕は棚の表面に指を走らせながら、その上に飾られた写真立てを見る。こんなもの、屋内に入った時には気が付かなかった。写真には背の高い男性とドレス姿の少女が写っているようであったが、ちょうど顔の部分のみがぼやけていて判別できなかった。  古時計の前に来た。振り子はカチ、カチ、と規則正しいリズムを奏でているが、長針と短針はぐるぐると果てしなく回転を続けていた。その気味の悪い光景に僕は一層怪奇への確信を抱くと共に、自分自身の身を案じて不安を感じ始めていた。僕は無事に元の世界へ戻れるのだろうか、と。  部屋を見て回ろうと思った。まずはホール左手の部屋。おそらくそこは談話室で、綺麗に掃除された暖炉の前に、座り心地のよさそうなソファーが二脚置かれていた。続いて隣の応接室。こちらも品の良い調度品で整えられ、家主のセンスの良さを窺わせた。
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