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 僕は人を探していた。または、人の痕跡を。  はたしてそれは二階への階段の踊り場に現れ、ホールへと戻ってきた僕を一瞥して声を張り上げた。 「園子! 郵便局に電話してくれ……電報を、内地へ電報を打たせるのだ」  それは厳格な顔付きの老執事であった。顔色が異常に悪く、腹を押さえて手すりにしがみ付くようにしている。僕は彼に歩み寄ろうとした――が、背後からの声がそれを押しとどめた。 「それが、できないんです。電話がうんともすんとも鳴らなくて」  振り返ると、たった今僕が出てきた応接室から、歳若い女中が姿を現していた。腰を締め付け、豊かな胸を強調するかのようなエプロンドレスは、まるで白黒写真から飛び出してきたかのような古風なお仕着せである。彼女も蒼白な顔で、僕には一切目をくれずに階段下へと駆け寄った。 「だ、だったらお前が行ってきてくれ。内地から医者を……ただちに……」  ガクリと膝をつく執事。女中は彼を抱き起したが、すぐに短い悲鳴を上げて体を離した。  女中は玄関へと走った。コート掛けから外套を掴み、玄関扉を開け放つ。途端に激しい雨音が耳を打った――外は確かに夜だった。それも、嵐の晩である。  女中は怯んでいた。横殴りの暴風雨に。轟く雷鳴に。  そして、目の前に立ちはだかる少女の姿に。
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