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【第一章 出会い】
桜谷駅7時50分発のJR線はいつもと変わらず混んでいた。
この路線は朝の車内混雑が有名であるが、こうも毎日人に押し潰されると辟易とする。
S大学に通う成田陸は、ホームで乗車の列に並びながら溜息をついた。
定刻通りに滑り込んでくる電車と、開いた扉からぞろぞろ吐き出される人間たち。何度も流れる発車メロディ。人の波に飲まれるように、陸は電車の中へと足を踏み入れる。
扉が無理やり閉まり、満員電車は動き出した。
――朝から疲れた。陸はまた溜息をつく。
陸の自宅の最寄駅は、ここ桜谷駅。
通いやすいことを理由に受験したS大学は、桜谷駅からJR線で一本だ。これなら苦もなく通える――その考えは甘かったようで、1限のある週3回は満員電車に耐え忍ぶ生活を送っていた。
入学してもう半年経つが、この苦痛に慣れることはないだろうと悲しく思う。
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