【第一章 出会い】

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「いや……」 助けて。誰か。陸は目をつぶって俯いた。 その時―― 「何してるんですか」 小さな、だけどはっきりした男性の声がした。陸を撫でていた手がぱっと離れる。 ちょうど駅に着き、人の波に揉まれながら陸は電車を降りた。 「大丈夫ですか?」 ホームで声をかけられて振り返る――さっきの声の男性だった。 陸と同じくらいの年だろうか、爽やかな印象の彼は心配そうにこちらを見つめていた。 「あ……」 「その…痴漢に遭っていたみたいだったから。犯人、逃してしまってすみません」 彼は律儀に頭を下げた。 この混雑降車の中に紛れ、犯人は逃げていったようだった。 「いえ、そんな。大、丈夫…です」 「大丈夫、じゃないよね」 気付けば陸は震えていた。へなへなと座り込む陸の腕を、その男の人は掴んで支えた。 「ちょっと休みましょうか」 促されるまま、その人とホームの椅子に座る。 数分経つと落ち着いたが、心の奥底から込み上げる気持ち悪さは消えていなかった。 「…もう大丈夫です。助けてくれてありがとうございます」 陸は言った。 その相手はどこかで見たことがあった――
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