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「いや……」
助けて。誰か。陸は目をつぶって俯いた。
その時――
「何してるんですか」
小さな、だけどはっきりした男性の声がした。陸を撫でていた手がぱっと離れる。
ちょうど駅に着き、人の波に揉まれながら陸は電車を降りた。
「大丈夫ですか?」
ホームで声をかけられて振り返る――さっきの声の男性だった。
陸と同じくらいの年だろうか、爽やかな印象の彼は心配そうにこちらを見つめていた。
「あ……」
「その…痴漢に遭っていたみたいだったから。犯人、逃してしまってすみません」
彼は律儀に頭を下げた。
この混雑降車の中に紛れ、犯人は逃げていったようだった。
「いえ、そんな。大、丈夫…です」
「大丈夫、じゃないよね」
気付けば陸は震えていた。へなへなと座り込む陸の腕を、その男の人は掴んで支えた。
「ちょっと休みましょうか」
促されるまま、その人とホームの椅子に座る。
数分経つと落ち着いたが、心の奥底から込み上げる気持ち悪さは消えていなかった。
「…もう大丈夫です。助けてくれてありがとうございます」
陸は言った。
その相手はどこかで見たことがあった――
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