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「あの…S大学の方ですよね?」
相手が先に言葉を発したが、陸もピンときていた。
「そうです。文学部の成田陸です。もしかして、鈴木くん?」
「そう!」
彼は笑った。S大学は大きい大学なので、文学部といっても人数が多くて全員を把握することは難しい。だけど、同じ授業にいた鈴木くんであることは確かだった。
「本当にありがとう、鈴木くん」
改めて陸がお礼を言うと、
「いつも僕もあの電車に乗ってて。たまたま痴漢現場に遭遇したから、いてもたってもいられなかった」
と鈴木くんは顔をこわばらせた。
「犯人、捕まえられなかったのが悔しいな」
「いや、本当に助かったから。まさか男の自分のこと痴漢する人間がいるなんて――」
思い出すと、ゾワっと鳥肌がたった。
「成田くん……」
そんな自分を、鈴木くんは心配そうに見ていた。
思えばこの時から、鈴木くんに好意を抱き始めていたのかもしれない。
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