【第一章 出会い】

1/5
22人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ

【第一章 出会い】

桜谷駅7時50分発のJR線はいつもと変わらず混んでいた。 この路線は朝の車内混雑が有名であるが、こうも毎日人に押し潰されると辟易とする。 S大学に通う成田陸(なりたりく)は、ホームで乗車の列に並びながら溜息をついた。 定刻通りに滑り込んでくる電車と、開いた扉からぞろぞろ吐き出される人間たち。何度も流れる発車メロディ。人の波に飲まれるように、陸は電車の中へと足を踏み入れる。 扉が無理やり閉まり、満員電車は動き出した。 ――朝から疲れた。陸はまた溜息をつく。 陸の自宅の最寄駅は、ここ桜谷駅。 通いやすいことを理由に受験したS大学は、桜谷駅からJR線で一本だ。これなら苦もなく通える――その考えは甘かったようで、1限のある週3回は満員電車に耐え忍ぶ生活を送っていた。 入学してもう半年経つが、この苦痛に慣れることはないだろうと悲しく思う。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!