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ドーナツとミルクティーは大好きな組み合わせ。時々、電車待ちの時間にちょっとだけドーナツ屋さんに寄る。至福のひととき。 「森合、口にチョコついてる。」 部活帰りは中田先輩とはいつも、バラバラに帰っていたのに今日は帰りも一緒だし、あろうことかお茶することになって僕の至福の時間はハラハラするものに変わった。 唇に指を当てられる。背筋がゾクッとする。 「やっ、やめてくださいいいい!」 お店の中だからなるべく小さい声で訴えた。 「森合ってさ。」 「え?」 「ちょっとした事で騒ぐのな。」 これのどこがちょっとした事!? 「いや、いきなり触られたら……。」 「俺たち、付き合ってるだろ。」 「…!」 付き合ってる。って、拘束力のありすぎる言葉だ。好きなフリでいいって言われて。でも僕は、本当に好きなんじゃないから恥ずかしいことは恥ずかしいし、唇を触らないでほしい。 「芝居さ。」 「ふぁい。」 なんか、変な声出た。あくびみたいな。 「眠い?」 「違います。」 「ふふ。芝居の話するけどさ。」 「はい。」 「森合はもっと、自分らしくやっていいんじゃないかな。俺、大会終わったら引退だし、そしたら森合だけの部活になるか、それとも続けないならそれで良いし。芝居を続けるにしろ、なんか、表面の演技だけじゃない、森合らしいことができたらいいんじゃないかなって。」 「…はい。」 中田先輩ってちゃんとお芝居好きなんだ。アドバイスしてくれるとか、尊敬する。バカだと思ってごめんなさい。 思わず中田先輩から目を逸らした。 「どうした?」 「いえ。やっぱり先輩って、お芝居好きなんですね。僕も頑張ります。」 「……俺、怒ってると思ってる?」 「…?」 「違うよ、森合違う。俺怒ってないよ。コレは、その…期待!期待してるんだからね。」 なんで中田先輩、焦ってるんだろう。おかしくて、ちょっと笑った。 「森合は笑ってんのが良いよ。森合らしいもん。」 「ふふ。」 「はは。」 至福の時間、邪魔するなって一瞬思った自分に中田先輩といる時間って悪くないよって教えたい気分になった。 「そろそろ、電車?」 「あ、はい。そうですね。」 そう言って立ち上がる時、少し胸の奥がチクってなった。ちょっとだけ、離れがたい気持ちがあった。それは、先輩として…?付き合ってる相手として…? 駅のホームは同じ。方向は反対。僕の乗る電車の方が先に来た。 「じゃあな、森合。また明日。」 手を振って別れる。 「また、明日。」 永遠のさよならじゃないのに、ホームに残る中田先輩が僕を見ていて、その姿から目を離せない気がした。中田先輩は少しだけ寂しい顔をしていて。胸がまたチクッと痛む。コレが、きゅんってこと?え? どうしよう。中田先輩の方が僕を好きなフリをしていたら。もし、僕が本当に好きになってしまった時、中田先輩は僕を好きじゃなかったとしたら、僕はひどく落ち込むんだろうか。 どうしよう。 発車ベルが鳴って、ホームに佇む先輩。電車が発車しても僕は、中田先輩から目が離せなかった。
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