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土日を挟んで月曜日。 部室に行くと、先輩ともう1人放送部の玉城先輩がいた。女子で気が強くて、僕は少し苦手。 「久しぶり、森合。」 「お久しぶりです。」 鞄を置いて台本を出すと、早速奪われた。玉城先輩はペラペラ台本をめくって中身を見る。 「相変わらず、みっちり書き込んでるね。」 「玉城にはちゃんと台本やっただろ。森合は稽古熱心なんだからバカにするな。」 「別に、バカには…ごめん、してるわ。」 そう言いながら台本を返してきた。 なんでこんな性格の悪い人が今年も手伝いに来ちゃったんだろう。てか、呼ぶ中田先輩の気が知れない。 「仲良くしろよ。な。」 玉城先輩に中田先輩が強く言ってるけど、そんなに仲がいいなら、僕と付き合う必要なくない? ん?なんか今、僕、変なこと思ってない?ん? 台本を手に取って2人から少し離れた席に座った。1人で台本に齧り付いてセリフを覚える。 「森合。練習は俺とやらないと意味ないぞ。」 「セリフ、覚えてます。集中してます。」 玉城先輩がいるってことは照明と音響の打ち合わせをするってこと。僕が抜けててもできること。 「森合。」 中田先輩が僕の横に来てしゃがみ込む。 「怒ってんの?」 「集中してます。」 「怒ってるだろ?」 「違います。」 「玉城は放送部の部長だから、来てもらったんだよ。打ち合わせには森合もいないと。」 「僕、ここにいて聞いてますので、始めてください。」 あきらかに僕は不機嫌で中田先輩を困らせている。でも、玉城先輩とは目も合わせたくないし、話なんか絶対したくない気分だ。 「森合と、2人きりにさしてくんない?」 僕は、背筋が凍りついた。 この言葉を言ったのは中田先輩じゃなくて、玉城先輩だったから。 「なんで?」 「生意気な子どもに言って聞かせようと思って。中田はなんだかんだ甘いから。あたしが躾けてやる。」 「え?」 「中田、森合借りるわ。」 玉城先輩は、乱暴なことでも有名だった。放送部の鬼と言われていたりもする。僕は何も言えないし、何も抵抗できないまま、玉城先輩に部室から連れ出された。 連れてこられたのはあまり人が来ない古い校舎。 「なんで、こんなことするんですか?」 「は?」 え、聞こえなかったの? 「いや、なんでこんなことするんですか?」 「森合、中田今年で最後なんだってわかってんの?」 壁に両肩を持って押し付けられた。 「かわいい後輩かもしんないけどさ、あんたが甘えてたら、大会なんか上手くいかないからね?」 なんで、玉城先輩がそんなこと言うんだろう。 「去年、森合セリフとんだよね?」 「…あ。」 「大事な、1番ミスできないセリフ、ミスったよね?」 玉城先輩は、その時音響をやっていた。 「なんで、あたしが覚えてるセリフあんたが忘れんの?意味わかんない。アイツが、悩んで悩んで書いた本、あんたバカにしてんじゃない?」 「…してません。バカになんて。」 「中田のことバカにしてるとこあるから大事な言葉が出てこないじゃないの?」 どうしてこんなに決めつけてくるんだろう。
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