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「山江くん……右手、大丈夫?調子悪かったりしない?」
わたしは思わずカズキくんに聞いてしまった。あんなヤバいのに憑りつかれているのにピンピンしているカズキくんは、奇跡の人なんだと思っていた。でも、違うのかもしれない。
「右手?あぁ、そういえばなんか最近痺れててさ。疲れてるのかな。首も最近痛いし、ボロボロだな」
首!?
わたしは、つい顔をあげてしまった。
しまったと思った時には、カズキくんの端正な顔と、それをほとんど覆い尽くすような黒いモヤ――ううん、それは無数の黒い顔の集合体だった――が彼の首を何重にも巻いているのが見えた。
そして、アレと目が合ってしまった。
パァン!
わたしのピアスとブレスレットが、同時に弾けた。
「痛っっっ!」
「松尾、大丈夫か!?」
アレがうっそりと笑ってわたしに近付いてくる。私の身を守るものはもう何もない。恐怖しかなかった。
「やだやだやだ来ないで!」
わたしは半狂乱になって手を振り回す。
「松尾、どうしたんだよ!」
カズキくんがわたしを落ち着かせようと肩に触れる。その結果、アレとの距離がさらに狭まる。もうダメ……殺される。
その時、わたしのスマホが鳴りだした。その着信音を聞いた途端、アレの動きがぴたりと止まった。お母さんからだった。
わたしは、助けを求めるために電話に出る。
「おか、おかあさ……。助けて」
「リコ。この電話をハンズフリーモードにしてそいつに向けなさい」
お母さんの冷静な声に、わたしはぶるぶる震える手で操作をしてスマホをカズキくん――もとい、アレに向ける。
電話の向こうからは、お母さんが何かを唱えている声。明らかに苦悶の表情を浮かべて苦しむヤツら。一体何が起こっているのか全く理解できずに戸惑うカズキくん。
そんなカオスな状況の中、お母さんが呟いた。
「リコ、逃げなさい」
その声を合図に、わたしはダッシュでその場から走り去った。
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