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週末、辰也は、幼馴染みであり、高校時代の同級生でもある宏司と居酒屋でグラスを傾けていた。仕事においても家庭においても、何かと多忙な時期ということで、ついつい疎遠になりがちであったが、今回久しぶりにスケジュールが合い、5年ぶりの再会となった。50歳を超えてからは初めてのことである。
しばらくは、お互いの近況を語り合っていたが、ふと定年後の人生設計に話が及んだ。
「俺は、現実的なものから、非現実的なものまで、三つくらい考えているよ。」
辰也が以前から温めていたプランを打ち上ける。
「どんな?」
宏司が興味津々に聞いてくる。
「まあ、もっとも現実的なのは、嘱託として今の会社に残ること。」
「非現実的なのは?」
「印税生活!」
「えっ?」
「俺、書くことがとても好きなんだよね。」
「なんか準備してんの?」
「小説とか書いちゃ、投稿してる。最近は、ネットでも投稿サイトがあるからね。」
「へー、どんな内容の小説書くの?」
「ジャンルは幅広いけど、わりと男女のドロドロが多いなあ。不倫系とか。」
「まさか、体験談じゃあ…」
「んなわけないだろう、妄想妄想。」
「怪しいもんだな、まあいいや。で、もうひとつ考えているのは?」
「俺、バスの免許持ってんだよ。若いころ、ちょっと必要に駆られてね。だから、幼稚園とか、私立学校のスクールバスなんかに縁があれば、って思ってたんだけどね。」
「“思ってた”って、過去形だね。」
「うん、ホントは60歳からやろうと考えてたんだけどさ。実は、会社から、役職の解任と、ありえないような人事異動を言い渡されたんだ。」
辰也は、通達された一部始終を話し始めた。
「いまどき珍しいね。でもずいぶんだなあ。」
「だから、この機会に転職しようかなって。人生のプランがちょっとだけ前倒しになるだけだからさ。」
「あてはあるの?」
「転職サイトには、来年春からの募集があった。私立の小学校、俺の母校だよ。ただね、カミさんがダメだっていうんだよ。」
「なんで?」
「日本の未来を背負った前途洋々の子供たちを何十人と乗せるわけでしょう。何かあったらどーすんだって!」
「へっ? でもそれ言ってたら何もできないじゃん。」
「そうなんだけどね。でもそういわれると何も返せないんだよ。実は、大型に関しちゃあ、ほとんどペーパーでさあ。一応、35年間無事故無違反だけど、それは、普通免許での話だし、そもそも、この先も絶対に事故起こさないなんて断言できないからさ。そんなわけもあって、“大型バスの運転解禁”を認めてくれないんだよね。」
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