大型バス解禁

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 いかにしたら妻の理解を得られるか。日々、知恵を絞って思案を重ねるも、なヵなか気の利いたアイディアは出てこない。辰也は焦り始めていた。小学校の職員として着任は年度替わりの来年4月だが、その採用面接試験は間近に迫っている。この機会を逃したら、次はいつチャンスが訪れるかは分からない。現職のドライバーが何らかの理由で退くなどして、欠員ができたときのみ、新たに募集が行われる。当然ながらコンスタントに求人があるわけではないのだ。  辰也は、妻の顔色を窺いながら、ご機嫌が良さそうな日を選んで、繰り返し繰り返し、自分を想いを素直にぶつけてみたが、何度アタックしても相変わらず彩佳は聞く耳を持たない。  「どうしてそんなに無茶したがるの? このまま会社にいれば、喰いっぱぐれることはないんだから、もう少し、我慢してちょうだいよ。」  辰也が今、会社でおかれている状況は、ことば尻では聞いているが、内情を知らない彩佳にとって、そこまで深刻な問題という意識はないようだ。  「でも、役職手当とかが支給されなくなるから、手取りは大幅に減るんだぜ。」  「転職したからといって、手取りが減ることには変わりないでしょ。それに、定年まで全うしたときと、今、自分都合で辞めたときの退職金って、全然違うはずよ。トータルで見たとき、どっちが得か、考えてみよ~。」  往年のキャッチコピーでおどけてみせるものの、就業規則を片手に、その目は至って真剣である。 
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