大型バス解禁

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 業を煮やした辰也は、妻には内緒で、とりあえず面接試験に臨むことを決意する。この求人に、どれだけの応募があるかは全くもって見当がつかない。わかっているのは“採用人数がひとり”であるということだ。冷静に考えれば、必ずしも自分に幸運の女神が微笑むとは限らない。とはいえ、まずはチャレンジしなければ、行動を起こさなければ、何も始まらない。“買わない宝くじは絶対に当たらない”のだ。やや強引な理屈とは思いつつも、妻に対する後ろめたさを振り払い、それでも妻が留守の時間を見図らい、スマートフォンではなく、簡単に通話履歴を知られることのない家の固定電話をあえて使い、想い出がたくさん詰まった母校に電話をいれた。  辰也は、応対した小学校の事務職員に自身の意図を伝えると、受話器を置くやいなや、さっそく準備に取り掛かる。長らくの間、部長という要職に携わってきたにもかかわらず、着任時の年齢がまだ若かったためか、人事に関する権限を与えられることなく、そのまま今日(こんにち)まで来てしまった。さらに、大学卒業後、今の会社一筋で勤め上げてきた彼にとっては、32年ぶりの採用試験になる。そんな経緯(いきさつ)もあって、辰也は意外にも昨今の面接事情にはかなり(うと)いのだ。  この間、日本は大きく変わっている。個人情報保護が叫ばれ、他人のプライバシーに踏み込むことは大いなるタブーとされるようになった。“パワハラ”が問題視され、上に立つ者の高圧的なふるまいは、なにかと非難を浴びるようになった。そういった変化が、採用面接試験のあり方にも少なからず影響を与えているだろうことは、想像に難くない。  辰也は書店で関連の書籍を2冊購入すると、会社帰り、毎日のように図書館へ通い、“試験勉強”に(いそ)しんだ。
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