大型バス解禁

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 とある地方の中小企業に勤める中谷辰也(なかたにたつや)、今年54歳である。12年前、42歳の若さで部長職を任されると、持ち前のバイタリティとリーダーシップで数々の職場改革を断行、長年にわたり会社に貢献してきた。  しかし、定年まで6年をきり、“最終コーナー”を回った感はあったものの、最後のご奉公とでもいうべき、ラストスパートと意気込んでいた矢先、会社から思わぬ人事を突き付けられた。部長職を解任され、全く畑違いの部署への移動を命じられたのである。  世の中の流れに沿って、定年は一応60歳であり、そのあとも希望すれば65歳まで嘱託で働き続けることは可能だ。しかし、“若手によりチャンスを与える”といった社長の考えから、50の声を聴いた社員は、皆、最前線から退くことを余儀なくされ、やがて理不尽な人事を言い渡される。事実上のリストラであり、実際、これを機に、不本意ながら会社を去っていくものも少なくなかった。  そんな先輩たちの苦悩を目の当たりにしてきた辰也であったが、彼の上の世代は10年ほど空白があり、しばらくそういった処遇は見られなかった。この間、少子高齢化はいっそう進み、ベテランの技術が見直される風潮もあったため、これまでのような不可解な人事など、もう過去のことであろうと思っていた。それ故に、今回の旧態依然と言わざるを得ない、まさかの命令に愕然として、会社に失望感さえ覚えてしまっていた。
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