誰かにとっての一番になりたい

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 合奏の時間が近づき私たちは音楽室へと向かった。 「今日はマーチからやるからな〜」  顧問の先生が準備する部員たちに向けてそう言った。  あ!そうだ!  私は、昨日この曲で人生初のソロをもらえたことを思い出す。今までソロのある曲でファーストを吹く機会がなかった私にも、ソロを吹く機会が訪れたのだ。  本当は別の楽器のソロなのだけど、人が足りないからとサックスが代わりにやることになった。ファーストは私と一年生の二人なので晴れて私が吹くことが決まった。  たった一小節の短いソロ。  でも、それは私にとってはすごく価値あるものだった。  先生が指揮棒を構え、曲が始まる。ソロが近づくにつれ少しずつ鼓動が速くなった。緊張を落ち着かせようと少し早いが、伴奏を吹いているサックスの人たちと同じタイミングで楽器を構える。聴き慣れたサックスの旋律が始まり、そろそろかと深くブレスを吸う。しかし、一音鳴らしたところで同じ音を吹くフルートの高い音色が聴こえた。  え?  そう思っていると、私が吹くはずだったソロを別の子が吹いていた。  曲が終わると、「うん、やっぱりここのソロはフルートがいいね。伴奏の人はフルートの音をよく聴くように。それから…」  先生が何事もなかったかのように話し出す。  先生はきっと、私にソロを頼んだことなんてきっと忘れてる。いや、そもそも私がソロを吹くと思い込んでいただけだ。  『ここの代わり誰がいいかな?んー、サックスかな…まぁ、一応サックスになったら、誰やる?丸山か?お、練習しとけよ。今度やるかもしれないから』  と言われたのを勝手にもう決まったことだと勘違いしていただけだ。私が悪いんだ。そうだよね。  私はそんな小さなことを気にしていると知られたら、プライドが高いとか怒りっぽいとか思われそうで誰にも気づかれないように演奏を続けた。こんなにも早く合奏が終わって欲しいと思ったのは初めてだった。  長い部活の時間が終わる頃には、日が沈み始めていた。  私が楽器を片していると、近くから何やら楽しそうな声が聞こえた。気になってみてみると、理恵がトランペットパートの女の子に何かを渡していた。  「すごく嬉しい!ありがとう!」  そういえば、トランペットの彼女は今日が誕生日だと誰かが言っていたなと思い出す。 「誕生日当日にくれるの嬉しい!」 「だって、遅れて渡されるより早い方が嬉しいでしょ?だから、昨日買いに行ったの!」  いやいやいやいや  私は思わず心の中でツッコんだ。  理恵は忘れているかもしれないけど、私は忘れてないよ?まだ誕生日のお返しもらってないこと。  三ヶ月前の理恵の誕生日には理恵が欲しいって言ってたポーチ買ってあげたのに、先月の私の誕生日  『今金欠だから、来月まで待って!』 って言われたきり、もらえてないんだけど…。まぁ、プレゼントってあくまで気持ちだし、私があげたいと思っただけだし。  でも、でも…その小さな溝で私は少しずつ壊れていくような気がした。理恵は下校する時も、私の誕プレの話はしなかった。
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