誰かにとっての一番になりたい

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 学校に行かなくなってから初めての日曜日。  自分の部屋で目を覚ますと、リビングから笑い声が聞こえた。父と母と姉の楽しそうに笑う声。    「辛かったら学校休んでいいよ」と優しく言ってくれた温かい家族。  わかっているのに、わかっているけど、私がいない場所でも楽しそうに笑えるという極々当たり前のことが私の心を締め付ける。  私は完全にどうかしてしまった。  自己中で被害妄想が激しくて、とてもつまらない人間だ。  私は、その辺にあったパーカーを取り、フードを被り静かに外へ出た。なにか甘いものでも食べて気を紛らわせようと家の近くのコンビニでスイーツを買う。  散歩でもしたかったが、ちょうど誰かに会いそうな時間だったので真っ直ぐ家に帰ることにした。  信号を待っていると知っている声が聞こえた。   同じクラスの同じグループのメンバーだ。フードを被っているし、後ろ姿だからバレるはずはない。そう思いながらも冷や汗が止まらなかった。私は深呼吸をしながら、彼女たちの会話に耳を傾けた。 「本当だるいよね、あの授業」 「それな、私毎回当てられるもん」 「思った!なんでそんなに毎回当てられるの?笑いこられるの必死だよ」 「こっちが聞きたいよ!日菜は全然当てられないのにさ〜」 「ね!日菜って当てられたことあるっけ?」 「覚えてないや。てかさ、日菜最近どうしたの?」 「私も思ってた。体調不良って言うから熱とかだと思ってたけど長くない?」 「そうそう、グループラインも既読つかないし…」 「心配だよね」 「ねー」  幸い聞こえたのは、自分の悪口ではなく自分を心配する会話だった。でも、今の私にはそんな心配これっぽっちも響かなかった。  彼女たちにとって私はただの話題の一つ。  別に戻ってきて欲しいわけでも、そばにいて欲しいわけでもない。  我ながら心が汚いと思う。でも、今の私にはそんなネガティブな考えしか出来なかった。  どうせ戻ったって、何かあれば私のこと一人にするくせに…  私は、学校に行かなくなってから気づいたことが一つある。  私は人が好きじゃない。  人はどうせ私のことを好きにはならない。なのに、なぜ私は人のことを好きになろうと思っていたのだろうか。そっちの方が不思議でたまらない。    私は家に帰って充電していたスマホを見る。しばらく時間が経ってからスマホを見た時に、通知がたくさん入っていると少しだけ気分が上がる。とは言っても今は誰からも連絡は来ないのだけど。  私はため息をついて、アプリのお知らせや公式からのメッセージを削除していると、一件友達から連絡が来ていることに気づいた。隣の席の佐藤くんだ。 「私、今学校行ってないんだけど」  とうとういないことにも気づかれなくなったか。そう思いメッセージを開くとそこには  『最近学校来てないけど、大丈夫?』  との連絡が入っていた。宿題以外の連絡なんて珍しい。そもそも、心配の連絡なんて初日以降誰もしてこなかったのに。そう思いつつ、私は返信する。   『大丈夫!ちょっと体調崩しただけだよ。また元気になったら学校行くね』  と来る日が来ないと知りながら、そんな文章を打った。急に原因不明の体調不良なんて、私だったら連絡なんて絶対しないのに。  佐藤くんはそういうのないのかなと少しだけ羨ましくなる。人が嫌いなくせに、人と比較して自分の醜さに絶望してまた涙が溢れてくる。  もう、やだ。  少し経つとまたスマホが鳴る。どうせ佐藤くんからのスタンプだよね。と見る前から既読をつけずにすぐスマホを閉じようなんて考えていた。でも、そこに来ていたメッセージはスタンプでも、わかった。でも待ってる!でもなく  『本当は?』  という言葉だった。止まりそうだった涙がまたどんどんどんどん溢れてくる。  私、本当は、本当は…  『寂しい』  私は気づいた時にはそう文字を残していた。今まで辛いとかしんどいとか苦しいとか、自分の中だけで解決しようとしていたけどそれは違かった。  私はただ誰かに話を聞いてもらいたかっただけなのかもしれない。  私は人が嫌いなんかじゃない。他人でしか自分を測れない自分自身が嫌いだった。  いつも人の目ばかり気にしているから、いつの間にか人そのものを嫌いだと思い込んでいた。でも、私は結局誰かがいないと生きていけない。一人でなんか生きていけない。  『話したいこと全部話していいよ、俺で良ければ何時まででも話聞くから』  佐藤くんのその言葉が嬉しくて、温かくて、私は思っていること、感じていること、言葉に出来る限り全てを話した。私の拙い言葉なんかじゃどこまで伝わったかわからないが、それでも決して否定せずに相槌を打つ佐藤くんに、全てを聞いて欲しいと思ってしまった。  そして最後には  『話してくれてありがとう。話したいことあればまたいつでも聞くから。おやすみ』  と、そう言ってくれた。佐藤くんはまた学校で。とかそんなことは言わなかったけれど、私は佐藤くんと直接話したくなった。今度は相談とかじゃなくて、なんでもない、他愛もない話を。
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