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ユキと2人「何ごと?」と、視線合わせる。
慌ててオフィスに戻ると、すでにオフィスの一角は人だかりとなっていた。
「新見係長、何の騒ぎですか?」
ユキがすかさず側にいた新見に問う。
と、新見が苦笑混じりに答えた。
「あれあれ。例のイケメン社長よ」
そう言って、新見がつんつんと指を指して見せた先。
人だかりの中心にはどうやら、榊原社長がいるようだ。
「ついさっき突然現れて、今夜の商談に誰か一人付き添ってくれないか?って。いつもは秘書さんって人が側にいるらしいんだけど、今夜の商談はとっても大事な商談で、緊急なんだって。で、秘書さんより一足先に出社したみたいよ?」
「えぇ!?付き添いって、社長と2人きりで商談に向かうってことですか!?」
「そうみたいね。で、若い女の子たちが我こそは!って、争ってる最中かなぁ~」
「ぃや…社長と2人きりってのは美味しいけど、商談のサポートは…自信ないなぁ」
「あら?ユキちゃんは名乗りをあげないの?」
「あ~私はいいですいいです。現実主義者なので」
「そう?姫ちゃんは?」
「え!?私ですか!?む、むむむ無理です!社長のサポートなんて、務まるわけがないですよぉ」
「ま、普通はそうよねぇ」
そう言って愉快そうに笑っている新見の隣で、女子社員達の喧騒を傍観する。
ーーみんな、すごいなぁ…。あわよくば社長の目に留まって、特別な関係に…て、思ってる人もいるんだろうけど…それ以外にも、キャリアアップのチャンスにもなりかねないもんね。
私も、こんな時に上手くやれたら…正社員にでもしてもらえるんだろうか…?
・・・なんて。『上手く』以前に、男の人と2人きりになることすら、できないくせに…
ふぅ。と小さくため息をついた時だった。
「…決めました」
騒然とするオフィスに、ぴんっと糸を張ったかのような、爽やかに通る声が響く。
その美しい声に弾かれるように、姫乃も人だかりの中心、榊原に視線を向けた。
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