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午前中までの鬱々とした気持ちの落ち込みは、大仕事を終えてしまえばすっかりと消え去っていた。
ひなたと共に臨んだPR会議では、王史のアドバイス通り、自分の想いは伝えられたと思う。
隣にいてくれたひなたの存在。
サポート役としてのユキの存在。
そして何より… …
いつも真っ直ぐな瞳で、弱虫な自分に勇気をくれる…王史の存在に、随分と支えられた。
「ねぇ。僕、姫乃さんの好きな人分かっちゃった」
「・・・えっ!?」
PR会議が終わったその足で、ひなたと共にいつもの公園のベンチで缶コーヒー片手に小さく乾杯をする。
「確かに、なかなか難しい相手だよねぇ♪」
「ひ、ひひひひなたさっ…!?」
かぁっと赤面し、おもちゃのように動揺している姫乃を面白いと、ひなたがくすくすと笑っている。
「…わ、私、すす好きとは、ぃ言ってません…!
しゃ、社長相手にす、好きなんて、おそ恐れ多い、ですし…」
「あ。やっぱり、榊原社長なんだ?」
「ーーっっ!?」
「あははっ 姫乃さん、チョロいねぇ♪」
ひなたの単純な誘導に、いともあっさりと乗せられてしまう。
我ながらつくづく情けないと、肩を落とした。
「見てたね?社長も、姫乃さんのこと」
「…そりゃ、私が、話をしていたので…」
「じゃなくて…真っ直ぐ、姫乃さんだけを見てた」
「… …」
「僕はアーティストだからね。人の視線や小さな気持ちの動きには敏感なんだ♪」
歌うようにそう言うひなたが、よく分からない。
なぜ先日、あのようなことを言ったのだろう。
特に追及をする気もないし、あの時のひなたのセリフを本気にするつもりもない。
ただ、ひなたがなぜあのようなことを言ったのか…
ふと疑問に思ったのだ。
『…代わりに僕のこと…考えてくれないかな?』
そう言ったひなたは息を呑むほどに美しく、返す言葉が見つからなかった。
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