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「新社長、今日からこっちで勤務なんだって~。まぁ、そもそも社長なんてあまり関わることもないんだけどねぇ?」
そう言うユキの言葉を耳の端で聞きながら、手元の書類をトントンと束ねた。
ざわっざわざわっ
と、突然オフィス内がざわめくのを感じる。
「社長?…て、あの人が!?」
「え!?あれが新社長!?」
「うそ~!ちょ、ヤバ…!」
ざわめきの中から聞こえてくるフレーズ。
オフィス内のその声を掻き消すように
爽やかで落ち着きのある
はっきりとした若い男の声が、響いた。
「デザイン部の皆さん、お疲れ様です。
5分!…ほんの5分だけ、僕にお時間を下さい」
優しく響くその声は広いオフィス内であっても良く通り、男性の声をこれほどまでに綺麗だと感じたのは…初めてだった。
思わず耳を奪われてしまうその声の先に、視線を送る。
一瞬でしんっと静まり返ったオフィス内で、一斉に彼に視線が集まった。
「…ありがとうございます。朝のお忙しい時間に突然訪問してしまい、申し訳ありません」
一呼吸置き、オフィス内をさっと見回した後
スーツ姿のその男性が深々と一礼をしてみせた。
歳の頃は姫乃とそう変わらないのではないか…
とは思うが、その落ち着きのある上品で美しい所作から、もう少し上にも感じられる。
そして深々と下げていた頭を持ち上げた瞬間
その美しさに、再び息を呑んだ。
やや明るめに染められた柔らかそうな髪がふわりと揺れる。前髪が無造作に上げられているため、その涼やかで形の良い瞳がはっきりと見て取れた。
通った鼻筋に、口角が上げられた優しい微笑みは
まさに…子どもの頃から幾度も夢に出てきた…
ーー…ぉ、王子様… …!!
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