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「イケメンなのにもったいな~い!いかにも仕事人間って感じ?恋愛には興味ないから言い寄っても無駄だぞって、牽制してるようなもんでしょ。
彼も姫乃と同じで、初恋未経験の恋人いない歴=年齢なんじゃな~い?」
「ユキさん!しーっ!!そんなこと、大きな声で言わないでくださいよぉ」
給湯室でお茶を沸かしながら、姫乃の教育担当であるユキをジロっと上目遣いに小さく睨む。
先程の一件について、いまだオフィス内のざわめきは落ち着いていないようだ。
「あははっごめんごめん!ま、社長なんて雲の上の人だし、言い寄ることすらできないんだけどねぇ?見るのは現実よ、現実!」
うんうん。と自分で言って自分で頷いて見せるユキに
くすっと笑いながら、湯呑みに向かいポットを傾けた。
「・・・で?どーなの?姫乃♪」
「何がですか?」
「いや田辺さんよ!絶対、姫乃に気があるでしょ?誘われちゃったりしたんじゃないの~?」
「…まぁ…はぃ…」
「マジ!?」
「あ!て言っても、お礼ですよ!?ちょっとした書類の整理を手伝ったので…」
「気のある子はお礼を口実にして食事に誘う。これビジネスマンの常識ね?で、行くの!?」
「・・・いぇ、特に…予定は」
「・・・はぁ…またか」
「や、やっぱり勇気がなくて、その…」
「まぁ、姫乃の理想の相手は『王子様』だもんね♪田辺さんは王子様には…ちょーっと遠いかなぁ?」
「ユキさん、それって失礼なんじゃ…」
「あ!じゃあさ、さっきの社長は!?ほらほらぁ
あのオーラといい、万人を愛するような爽やかな笑顔といい…王子様キャラだよね!?姫乃、どストライクなんじゃないの~?」
「っ!?ユ、ユキさ~ん!」
確かに、彼は姫乃の思い描く『王子様』そのものだった。そのため図星を刺され、思わずかぁと赤面してしまう。
そんな姫乃にくすくすと笑いながら、ユキが笑いを含んだ声で言った。
「チャンスがあれば、応援するよ?」
「・・・そんな奇跡みたいなチャンス、来るわけないじゃないですかぁ~」
社長で、王子様のようにキラキラと輝いていて…
そんな素敵な、理想のような人が自分など相手にするはずなどない。
おそらく契約期間が終了し、この会社を去らなければならなくなる時が来てもなお、社長と会話をすることもないのだろう。
ため息混じりにユキにそう返した時、突然、背後のオフィスから女性たちの黄色い歓声が響いた。
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