1 発情する王女

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1 発情する王女

「ちょっと待ってジュール、んッ」  ドレスの中に忍び込んでいた者の頭を叩いて止めようとしたサンドラは、扉が開くのと同時に慌ててその者の背中にもすっぽりとドレスの裾をかけた。裾は不自然な程に膨らんでいる。侍女はぎくりとして足を止めたが、何も見えていないように今日の予定を話すと足早に部屋を出て行った。  足の間で蹲っていた者は再びその舌を動かし始めた。 「ジュール、ほん、とうに、待って……あっ」  ドレスのスカートの中からくぐもった水音がいやらしく響いてくる。ドレスの中でガクガクと震える足を逞しい腕で押さえられ、蜜口にジュールの舌が差し込まれていく。それと同時に敏感になっている粒を鼻で押し潰され、その絶妙な力加減にあっという間に達してしまった。  サンドラはこの国の第一王女であり、王位継承権第一位(仮)、そして誰もが羨む美しい容姿を持つ女性だった。白銀の長い髪は絹のようで、神話の女神が降り立ったかのような神々しさを放っている。くびれたウエストに対象的な大きな胸は、決して強調している訳ではないのに男性の目を引いていた。  女性でも王位を望めるこの国で女王は決して珍しくはない。今の王も女王であり、サンドラは物心ついた時から女王になるべくして教育を受けてきた。全ては順調に進み、いずれはどこかの王族か高位貴族の子息と結婚すると思っていた。  しかし、それも一ヶ月前に全てがガラリと変わってしまったのだった。  私室からダンスホールに向かって歩いていた時だった。廊下の向こうから体躯のいい男が歩いてくる。男はサンドラを認めると廊下の端に避け、膝を突いた。頭を下げているので顔までは見えない。この国では珍しい黒髪の大男が騎士団にいる事は知っていたが、名前はおろか顔もうろ覚えの男の前を通り過ぎようとした時だった。  急に身体が熱くなり、とっさにその場にしゃがみ込んでしまった。顔が熱くて、お腹の奥がムズムズと騒がしくなっていく。自分ではどうする事も出来なくて訳が分からないまま蹲るしか出来なかった。しかし突然の出来事に周りをオロオロとする侍女達を尻目に、目の間でしゃがみ込まれた騎士は軽々とサンドラを抱き上げると、直様近くにあった応接間へと入っていった。 「お身体に触れたご無礼をお許し下さい。ご気分が優れないようですが、すぐに医者を……」  ソファに座らされたサンドラは声を出すのも辛くなっていたが、離れようとする騎士のマントを無意識に握っていた。鍛え抜いた硬く太い腕がサンドラの腰のすぐ横に手を突く。騎士はとっさに離れたが辛うじてその場に留まった。 「医者はいいわ。人払いを……」 「人払い? ですがお一人には出来ません」 「あなただけ、残ってちょうだい」  マントを握り締めたまま至近距離で見た騎士は、短い黒髪が印象的な硬派な男性だった。目元は切れ長で瞳は金色をしており、この国の人々とは反対の容姿をしている。なぜだかサンドラはこの騎士から目が離せなかった。 「私でしょうか?」  騎士が困るのも当たり前。そして待機していた侍女達もどう動いていいのか分からずに立ち尽くしていた。その間にも熱くなっていく身体と、膣の中からとろりとした物が流れていくのが分かる。ずくりと疼く下腹部に苦しみながら騎士のマントを強く握り締めた。 「あなたがいれば解決するわ。少し協力してもらうけれど」 「もちろん私に出来る事なら……」  そう言いかけた所で騎士も気が付いたようだった。ハッと息を呑むと薄い唇を噛み締める。一瞬耐えるように俯いた後、後ろの侍女達に声を掛けた。 「サンドラ様の仰る通りにするように。あなた達は下がっていて下さい。何かあれば私が医師を呼びます。そして部屋の前には誰も立たないように」  早口でそう言われた侍女達は困惑しながら部屋を出ていく。騎士は頬を強張らせながら慎重に言葉を選んで言った。 「間違いでしたら申し訳ございません。もしかしたら今のサンドラ様の症状は、王家熱でございますか?」 ーー王家熱。  王の血筋の、主に女性に多く発症する病気の一つとされていて、年頃になった女性がより多くの子孫を残す為に起こる発作だった。症状は発情。本来夫がいれば発症したとしても特に困る事は無い。しかしサンドラはまだ、結婚はおろか婚約者もいない。初めての発作に戸惑いながら、無意識に騎士の頬に手を伸ばしていた。ビクッと大きな身体を強張らせた騎士は後ろに身体を引いた。しかしその時目に入ったのは、スラックスを突き破ろうとする程に膨れ上がった陰部だった。 「申し訳ございません! 不敬をお許しください!」  いつもは胸を張り、背筋を伸ばして歩いている騎士の姿からは想像出来ない程の慌て振りにむしろ身体が火照ってしまう。無表情の強張った顔が今や赤く染まり狼狽えている。サンドラは熱に浮かされながらその姿がもっと見たくて、無意識にマントをぐっと引き寄せていた。目の間に困惑した顔が映る。少しカサついた唇に、凛々しい目元、男らしい肩幅に、近付いて分かったが、首筋からはほんのり汗の匂いがした。その瞬間、サンドラの下腹部は更にキュウッと切なくなった。 ーーもう駄目、ごめんなさい!  サンドラは騎士の唇にぶつけるように唇を押し当てていた。がつんと歯までぶつかる。騎士が逃れようとして押してきたその手を、自分でも魅惑的だと思う胸へ持っていくと強く押し当てた。 「ん! サン、ドラ様、止めッ」  騎士が拒絶の言葉と共に口を開いた瞬間、サンドラは自らの舌をねじ込んでいた。ぬるりとした温かい口内を、どうしていいのか分からないままに探る。上手とは言い難い口づけでも、舌がぶつかるだけで快感が背筋を這った。 「お止め、くださ……、ふ」  必死で抵抗される度にサンドラは小さな舌で騎士の舌を吸ったり、歯列を舐めたりした。その瞬間、胸に押し付けたまま固まっていた大きな掌がふにふにとサンドラの胸を揉み始める。甘ったるい快感と共にじれったさが募り始めたサンドラは、自らドレスの胸元を押し下げていた。こんな時、コルセットが邪魔で仕方ない。ふるりと零れ出た乳房を見た騎士は大きく喉を鳴らしてから、サンドラの身体を押し離した。吸っていた舌がチュパっとした水音を立てて離れる。しかし次に更に来るだろう快感を求めて、サンドラは押されるままにソファに倒れた。しか騎士はサンドラの胸元をぐっと引き上げると一つ大きな息を吐いた。しばらくした後、騎士は勢いよく立ち上がり扉を開けた。 「私が医師を呼んで来るから、それまで誰も部屋には入らないように。あと、絶対に男性を近づけてはならない。いいな?」  扉の方でジュールが侍女達に指示を飛ばす声がする。サンドラは意識が朦朧としていき、ふっと目を閉じた。
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