7 新しい男と

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7 新しい男と

 ジュールが護衛から外れた後、二回の発作があった。  でもそれらは母親にも侍女達にも、もちろんジュールにも知られる事はなかった。やり過ごせたのには理由がある。まずは薬を常に服用していたという事。本来なら発作が起きたら薬を飲んでいたが、そうなってからでは遅い。発作の影響で男性を誘う匂うは発してしまうし、そうなってしまえば必ずその熱を発散させなくてはならない。その行為を毎回自分でするには抵抗があるし、長い時間が掛かってしまう。誰にも見つからずに発作を最小限に抑えるには朝起きたら薬を飲み、常に抑えるしかなかった。  そこで軽い発作が起きた時には侍女達ばかりがいる場所や私室に戻り、やり過ごしていた。女性には匂いは気づかれないし襲われもしない。しかし我ながら良い考えだと思った時には、もう身体に影響が出ていた。  女王主催の夜会は華々しいものだった。賓客を迎えての夜会だとは言われていたが、その賓客が誰なのかは当日のお楽しみだと言われていた為に、サンドラは賓客の性別も年齢もどこから来たのかさえ教えてはもらっていなかった。  そんな夜会のさなか、王家熱の症状が出てしまった。  急いで壁側に向かい、さり気なく令嬢達の多い方へと向かっていく。ゆったりとした音楽が流れ、丁度お酒が回り始めた人々はサンドラになど気にも止めていない。でも今はその方がありがたい。今日の朝も薬は飲んでいたが、なぜか効き目が悪くなっていた。 ーー早く部屋に戻らないと。  不意にグラスを持っていた男性とすれ違う。とっさに談笑している夫人達の背中に隠れたが、その男性は軽く振り返っていた。 「危ない……」  ふと、遠くにジュールの姿が目に入る。ホールの向こう側に立っていたがこちらを向いているようにも見える。しかしこの広いホールでサンドラがどこにいるかなど分かるはずもない。第一今はそんな事を考えている余裕はなかった。次第に身体が熱を帯びてドレスが擦れるだけでも感じてしまう。声を抑える為に唇を噛み締めていると、不意に腕を掴まれた。 「止めてッ」  朦朧とし出す中、腕を動かしたが、返ってきたのは穏やかで低い声だった。 「ご気分が優れないのですか?」  少し屈んでこちらを覗き込んできたのは見知らぬ男性だった。濃紺の短い髪に、髪の毛と同じ濃紺の瞳。ジュールの見た目にどこか似ている容姿に、サンドラは潤みきった瞳で見上げていた。 「どうなさいました? どこかで休まれますか?」    男だと身構えたが、それよりもとにかく男性の多いホールから出たくて声を絞り出した。 「人気の少ない所まで、お願い」 「……構いませんよ。私でよければお連れ致します」  そう低い声が耳元でする。サンドラは腕を支えられたままホールを後にした。  人気のない廊下まで行くと男は手袋を外し、サンドラの額に手を当ててきた。 「ん、ふぅ」  とっさに漏れ出た声にも今は何も出来ない。ただ最後の抵抗とばかりに男から距離を取った。 「そんなご様子でどちらに行かれるのです?」 「……侍女を呼んで」 「侍女と言われましても。ここには誰もおりません。かといってあなたを置いて探しに行く訳には参りませんし。兵士なら巡回しているはず……」 「それだけは絶対に駄目よ!」  他にも男性を連れて来るなどありえない。サンドラは意思とは関係なく堪らなく疼き出している下腹部を抑えながら、男の顔を見上げた。夜会に出席しているのだからどこかの貴族の令息なのだろうか。 「部屋まで、連れて行って。でも私には指一本触れないでちょうだい」 「かしこまりました。ご自身の足で歩けますか?」  触れるなと言いながら、もはや自分の足で歩く事は不可能に思えた。座り込んだままでいると、男は小さく失礼と言い、一瞬にして抱き上げられた。どんどん進んでいく男に部屋までの道順を伝える。そして一瞬、意識は遠退いてしまった。  部屋の中に激しい水音がする。身体が寒くて熱くて訳の分からない感覚に陥っていた。 「目が覚められましたか?」  気がつくと、信じられない事にさっきホールで声を掛けてきてくれた男性は、サンドラの寝室で事もあろうか陰部を勝手に舐めていた。いつの間に脱いだのか服は何一つ着ていない。知らない間に広げられていた両足を閉じようとしても、意識が戻った瞬間に感じた刺激が直接腰に伝わってくる。チクチクとした短い髪の感覚さえも内腿を刺激してビクビクと反応してしまう。サンドラは背中を仰け反らせながら唇を噛み締めた。 「声は我慢しなくていいですよ。私は激しい声でも引いたりしませんから」   「こんな事をして、ただで、済むと思っているのっ?」 「ですがあなた様がご自身で望まれた事ですよ。僕は従ったまでです」  男は再び口を陰部に付け、舌で執拗に舐めてくる。身体が溶けそうで堪らない。腰の奥がズクズクと響いてもう意識が飛びそうになってしまっている。男は顔を上げると、ツプリとしっとりと濡れた蜜壺に指を押し入れてきた。 「んはあぁ! 抜いてぇ!」 「ですがあなたのココはしっかりと咥えこんでいますよ? 失礼ですが、これは王家熱では? 噂には聞いておりましたがとても甘い匂いがするのですね」  もう男が何を言っているのかも分からない。ただ頭が真っ白になる感覚に無意識に腰が揺れていく。男は指を入れたまま横になった。すぐそばに男の顔がある。もう視界は霞んで見えていない。熱い身体に乱れる呼吸。窓から漏れ入る月の明かりだけがうっすらと二つの呼吸を浮き立たせていた。 「も、止めてッ」 「ここで止める方がもっと苦しくなりますよ」 「苦しいのはもういやぁ! ほん、と? 楽になる? んンッ」 「なりますよ。僕に身を任せて下さい。うんと気持ちよくして差し上げます」  耳元で囁かれた声にずくりと大きく子宮が疼いた。急速に早まる動きに喘ぐ事しか出来ないでいると、熱と快感が弾け飛んだ。もう頭は朦朧としていて一体何をしているのか、何を話しているのかさえ分からなくなっていた。 「あふ、あぁん! んん」  ビクビクと痙攣したまますぐ隣りにある顔を見上げる。暗い部屋の中で見る姿にうっすら目を閉じた。 「ジュール、来てくれたのね……」  ヒクつく蜜壺の入口に一際熱くて硬い物があてがわれる。それが何なのかはもう分かっていた。 「ジュール来て、お願い、あなたで私を一杯にしてッ」  自ら腰を後ろに突き出し、擦り当てる。太くて熱い物が何度も入口を行き来してヌチヌチという粘着質の音が脳に響いてくる。その中でフニっとした柔らかくも硬い先端が、敏感な粒を刺激し始める。サンドラはシーツをきつく握り締めながら喉が枯れる程に喘いでいた。 「サンドラ様は戻られているか?」    ジュールはサンドラの部屋の前で護衛をしていた女騎士に声を掛けた。会場から走ってきたせいで、少し息が切れている。女騎士はジュールを前に僅かに緊張した面持ちで頷いた。 「戻られております」 「そこをどけてくれ。ご体調を崩されているように見えたんだ」  しかし女騎士は頑としてその場を動こうとはしない。ジュールは痺れを切らしたように女騎士の肩に手を掛けた時だった。 「邪魔をしては駄目よ」  後ろから聞こえた声にとっさに振り返ると、立っていたのは女王陛下だった。 「邪魔とは? もしかしたら発作を起こしているかもしれません!」 「あなたが護衛から外されてからすでに二回起きているわよ。これで三回目ね。あの子はうまく隠していたつもりだけれど、宮廷医師からサンドラの薬の消費が早いと言われてね。処方する薬をただの痛み止めとすり替えさせたの」 「それでは今は発作を起こしているという事ですか?」 「そうよ。だから邪魔はしないで欲しいと言っているのよ。言ったわよね、お前が最後までしないのであれば、別の男を充てがうと」  ジュールははっとして扉の方を見た。女王が女騎士に合図をする。すると扉はほんの僅かに開かれた。 「……ん、ふぅ、あぁんッ」  扉の隙間から小さな艶めかしい声が漏れ聞こえてくる。ジュールは拳をきつく握り締めた。 「お前の出番は終わったのよ。騎士道もいいけれど、それでは本当に欲しいものは横から掻っ攫われてしまうわよ。あぁ、もう攫われてしまったようね」  立ち尽くしているジュールの前で扉が閉まる。そしてゆっくりとその場を離れていった。
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