ダンジョン1日め――第2層後半

1/1
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

ダンジョン1日め――第2層後半

 ゴブリンナイトは動いていなかったので、気配を察知できなかった。  ビリーの気配に気づいたのか、ナイトが振り返り始めた。  弓の距離ではない。矢を番えている間に斬られてしまうだろう。  左手の弓を捨てて剣を抜くか? いや、距離が近すぎる。  意を決したビリーは弓を放り出してナイトに組み付いた。背中側に回り込んで両腕を押さえる。  右手を封じれば、ゴブリンナイトは剣を抜けない。  その隙にビリーは左手でベルトからさっき拾った鏃を抜き取り、ゴブリンナイトの首筋を掻き切った。  両手でナイトを突き放し、右足で蹴り飛ばす。  地面に倒れたゴブリンナイトは首筋を押さえてのたうち、やがて力尽きて消えて行った。  体を走る戦慄はスキルを得た証であった。ビリーは「剣術」を得た。  手にした剣を振るう。違いが分かる。剣筋が立つ。  ショートソードは力を込めずとも正中線を切り割り、丹田の高さに止まった。 「ふぅーっ。あっぶねぇー。出会い頭だったな」  油断したつもりはないが、意表を突かれた。ダンジョンにはこういうこともある。 「何があっても即応できる心構えが必要だ。弓に頼りきりじゃなくて、近距離戦で剣を生かさなくては」  ビリーは弓を通路の壁に立てかけると、腰を落として抜刀の練習をした。スキル「剣術」が働き、何の抵抗もなくショートソードが鞘走る。剣身が鞘を擦る音と、抜刀後に空気を切る音が1つになって聞こえるまで抜刀と納刀を繰り返した。  何度目かの抜刀で脳裏に光が走る瞬間があった。ビリーは抜刀術「居合」を得た。  今なら臍の前10センチの距離でも相手を斬れる。それが事実としてわかった。  ビリーは剣を納め、弓を取り直して通路を再び歩き始めた。  途中の部屋にゴブリンがいれば、飛び込みながら抜刀し、居合で切り捨てる。  アーチャーの首を飛ばした時は、弓術「遠当て」を得た。試みると、50歩が必中となっていた。  そのすぐ後にアーチャー3人組が出た。50歩の距離で撃ち合いになったが、ヘッドショットで2体を倒す間に最後の1体が矢を放ってきた。が、狙い定まらず、通路の壁を削って矢は飛び去って行った。  ビリーは余裕を持って3体目を沈めた。「ゴブリンアーチャーの弓」をドロップしたが、今使っている弓より性能が劣るので拾わずに捨て置いた。 「俺がアイテムを捨てる日が来るなんてね。『落穂拾い』のこの俺が……」    やがて見つけたボス部屋は、隠れる場所もない100メートル四方の開けた空間の中央にあった。 「隠れる場所がないなら……こうするしかないか」  ビリーはボス部屋の入り口前に腰を下ろし、食事休憩を取った。右手の地面にショートソードを置き、左手の地面には鉄弓を横たえた。そうしておいて、保存食の干し肉をかじっていた。  左手に影が揺れた。と視えた瞬間、ビリーは鉄弓を拾い上げ顔も動かさず真横に矢を放った。  狙い過たず、矢はゴブリンナイトの喉を貫いて即死させた。  ビリーの体を熱い風が吹き抜け、ビリーはレベル5に到達した。  通説によれば、ゴブリンナイトのレベルが5だと言われている。これ以上はナイトを倒しても強くなれない。 「ここらが第2層の限界かもしれないな」  時刻はそろそろ午後2時になろうかという頃合い。明日の内にダンジョンを出てミライに薬を与えてやりたい。それを考えると、第2層で費やせる時間はそろそろ限界であった。  腹ごしらえを終えたビリーは、ショートソードと鉄弓の具合を確かめ、ボス部屋の扉に手を触れた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!