ダンジョン1日め――第3層

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ダンジョン1日め――第3層

 扉を開けると広々とした空間だった。外から見た部屋のサイズよりも明らかに大きい。  これがダンジョンは異世界と言われる理由であろう。  部屋の中央に30センチほど回り寄り床が高くなってエリアがあり、その中央に光が降り注いでいた。  ダイアモンドダストのようにきらきらと輝く光が収まると、その後にはゴブリンメイジが立っていた。  既に弓を構えていたビリーはメイジが実体化するとともに矢を放った。 「――!」  意味の分からぬ呪文を発して、ゴブリンメイジが魔術を行使した。雷電が飛矢を貫き、空中で燃やし尽くした。  雷が矢を襲った瞬間には、ビリーは次の矢を番えていた。  メイジに向かって踏み出しながら、切れ目なく矢を放つ。  全身から白光を放ち、ビリーは弓術「速射」を得た。そこからはさらに矢を射る速度が上がった。  すべての矢はメイジに届く前に空中で焼かれているが、メイジも攻撃を出せないでいる。 (手を停めたらやられる!)  前進するプレッシャーをさらに強めながら、ビリーは速射を続ける。メイジの魔術がしのぎ切るか、ビリーのスキルが押し切るか?  ビリーが後一歩で居合の間合いに入るというところで、ゴブリンメイジが勝負に出た。あえて迎撃の雷魔法を使うのを止めて、矢が飛んでくる瞬間に地面に身を投げた。その髪を数本散らしながらビリーの矢は飛び去って行った。  転がりながら「にやり」と笑ったメイジ。呪文1回分を飛ばして練った、より強力な魔術が発動寸前になっていた。  その時――。  弓を捨てたビリーは居合の構えに入っていた。しかし、メイジまで間合いは一歩遠い。このまま抜いても剣先は届かない。  そうと見たメイジは、さらに笑みを広げながら魔術を発動した。 「――!」  同時にショートソードを抜き打つビリー。その剣先は弧を描くことなく、流星となってメイジへと飛んだ。  抜刀術「流星剣」。  ボス部屋直前にゴブリンナイトを倒して得た投擲スキルであった。  勝利を確信したまま、ゴブリンメイジは脳天を貫かれて死んだ。 「おお!」  全身を貫く震えと共に、光を発しながらビリーはレベルアップした。一気にレベルは8に達した。ゴブリンアーチャーと同格であった。  ゴブリンメイジが光となって消えた後、ビリーはショートソードを地面から拾って鞘に納めた。  激しい戦いで矢は半分消耗してしまった。残りは20本ほどになっていた。  小休止で装備と息を整えたビリーは、ついに第3層に向かって階段を下って行った。  ◆◆◆  階段を下りてみると、3層めは暗かった。今までの階は壁や天井がうっすらと光を発していたので、灯りがなくとも活動できた。  しかし、第3層は夜のような暗さで、ランタンの灯りなしには進むことができなかった。    また、第3層のモンスターは手ごわかった。これまでと異なり、3体のモンスターがチームワークを発揮しながら迫って来る。特に、ゴブリンメイジとゴブリンアーチャーがチームに混じっている時が危険だった。  ゴブリンナイトは盾を持っていないため、ゴブリンメイジが魔術による防御で盾役を果たす。ビリーの矢は空中で撃ち落され、相手のアーチャーはビリーを狙い放題となる。  ビリーはやむなく撤退し、耳元を飛びすぎる矢の音を聞きながら辛くも通路を走り抜けて逃げ切った。 「ダメだ。この階層では戦う相手を今まで以上に選ばなくては」  アーチャーとナイト以下の組み合わせなら問題ない。メイジとナイトでも勝てない訳ではない。  ビリーは作戦を考え、レベルアップのためにはメイジを狙い、スキルとドロップ品の獲得のためにアーチャーを狙うという両面作戦を展開した。夜まで粘ったが、レベルを上げることはできなかった。  これ以上は体力と集中力が続かないと判断したビリーは、1日目の戦闘を切り上げ休息を取ることにした。2層めと3層めをつなぐ階段の途中に腰を下ろし、片目を開いたまま体を休めた。  これは「落穂拾い」での巡回中に休息を取る方法として、爺に習った方法だった。  モンスターがいるダンジョンの中で見張りも立てずに眠ることは命取りだった。だが、人間の体と脳は休憩を必要とする。休まなければ疲労が蓄積し、パフォーマンスが下がる。やがて倒されて死ぬことになる。  問題は脳であり精神的な疲労だ。これは自己暗示のような形で、「自分は休んだ」と言い聞かせるしかない。  片目を閉じるのは脳を誤魔化す自分へのトリックであった。  不思議なことにモンスターは階層から階層へと移動することがない。だから、途中の階段は一種の安全地帯になると考えられていた。しかし、アーチャーやメイジが遠くから攻撃してくるかもしれない。  そのため、完全に眠ってしまうことはできなかった。  6時間の休憩を取り、体感で2日目の午前零時を過ぎた頃、ビリーは第3層へのアタックを再開した。
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