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エドヴィン王子が、何の前触れもなく突然ブラウニー家に突撃したのは、ちょうど1ヶ月前のこと。
その日リーゼが別のメイドと街に萌えのための材料調達(リーゼ談)のために外出しており、エドヴィン王子と話をしたのはリーゼの父であるブラウニー男爵だった。
ニーナはメイドの1人として、空気となってその会話の場に佇んでいた。
「お前の娘を婚約者にしたい」
「殿下? 今何と……?」
まさに、寝耳に水な提案に、ブラウニー男爵は自分の耳がおかしくなったのではないか、と考えた。
「だから、お前の末の娘を、俺に嫁がせて欲しいと言っているんだが」
「あ、ああああああの……うちの……あの娘を、ですか?」
ニーナは、何故男爵がそこまで動揺しているのかを理解していた。
元々男爵も息子たちも、リーゼに激甘。リーゼが自分から望まない限りは、家から一歩たりとも出す気がない溺愛っぷり。
他の令嬢が社交を通じて異性と交流し、結婚相手を家ひっくるめて吟味していると分かっていながらも、男爵たちは無理にリーゼをそういう場に行かせようとはしなかった。
リーゼが家に閉じ籠り、数多くのエドヴィン&アレクサンドラ推しグッズ(リーゼ談)を創り続けている時の目の輝きを見ていると、ついブラウニー家の男どもは思ってしまうのだ。
リーゼに、無理に社交界マナーを叩き込ませてぐったりさせるより、ずっと自分達の側で、自分達にはよく分からない物体を作り続けてくれた方が、自分達もまた幸せだと。
まして、王子の婚約者ともなれば、待っているのはイバラの道。とてもか弱く(ブラウニー家男一同談)妖精のようなリーゼに耐えられるとは、思えなかった。
なので男爵は、どうすれば将来この国を背負う、望めばどんな美姫でも手に入るような完璧な男に、娘を諦めてもらえるか、今人生で1番真剣に思案していた。
「どうした、男爵」
「あの……失礼ですが、うちの娘じゃなくても……エドヴィン様にはアレクサンドラ様がいらっしゃるのでは、と……」
男爵は、ついアレクサンドラの名前を出してしまった。リーゼがいつも口に出しているせいで、自分の妻とリーゼ以外の女では、その次に名前が思い浮かんでしまうのだった。
「何故、ここで彼女の名前が……」
「アレクサンドラ様とエドヴィン様は、恋仲だとお聞きしましたが……」
男爵のその言葉に、王子は目を鋭く細めた。
「一体誰から」
「そ、それは……」
男爵はリーゼの名前を出すことをためらったが、その態度でエドヴィン王子は気づいたようだった。
「お前の娘は、何故そんな勘違いを……」
ひどく落ち込んだ様子のエドヴィン王子と、ニーナが目が合ってしまったのはこの時だった。
ニーナは、とても嫌な予感がしていた。
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