1.萌えは私の栄養素

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 そんな訳で、ニーナは晴れて(?)エドヴィン王子の共犯者になった。  とはいえ、自らの夢……若くして一生働かなくても暮らしていけるだけの金を手に入れる……を、どうにか手に入れるために、恋愛には無頓着の主人の心のベクトルを、無理やりにでもエドヴィン王子に向けさせなくてはいけない。  これが、どんなに難しいかを知らないニーナではない。  ついこの間、こんな話題をリーゼと書斎でしたばかりだったから……。   「ねえ、ニーナ。早くエドヴィン王子とアレクサンドラ様がご結婚されないかしら」  この時、リーゼは少しだけえっちぃ描写があるという、秘密のときめき小説を真顔で読んでいた。  表紙が隠されていなければ、歴史的に著名な詩集でも読んでいるんじゃないかと、誰もが錯覚したことだろう。 「またそれですか……」  そんなリーゼに、お茶を淹れてやりながら、ニーナはため息まじりで答えた。 「最近、ずっとその話題ばかりじゃないですか。何故王子にそこまで結婚して欲しいと思ってるんですか」 「だって、早く小説家としてデビューしたいんですもの」 「……なんですって?」  ニーナが尋ねると、ぐわっとリーゼが立ち上がりながら、まるで演説のようにつらつらと語り始めた。 「私も、こんな恋愛小説を書いて、人々にエドヴィン様とアレクサンドラ様の良さを全世界に広めなくてはいけないと思うの」  欲を通り越して、リーゼにとってそれは義務になっていた。 「やっぱり小説はハッピーエンドでなくてはいけないと思うの、わかるでしょ」 「別に悲しい結末にだって、名作と呼ばれてる作品はたくさんありますよ」 「エドヴィン様とアレクサンドラ様に悲しい結末なんてあり得ない!あってはいけないのよ!!!」  それからリーゼは、彼女の中の妄想結婚式を語り出した。  何が楽しくて、他人の結婚式について熱く語れるのだろうかと、一周回ってニーナは感心すらしてしまった。  そんな妄想を、1時間延々と、お茶の1杯も飲まずに語り尽くしたリーゼは、最後にはこう高らかに宣言した。 「きっと結婚式は呼んでいただけると思うの」 「まあ、男爵家ですからね」 「だからね、ぜひ遠目で眺めて、それを元に小説書いてデビューしたいの」 「何故、わざわざ遠目で」 「きっと近づいたら、お二人の輝きで目が潰れてしまうと思うの。ねえ、そう思わない?」  ニーナは決してそんなことは思わないので、肯定も否定もしなかった。 「ああ……国民の歓声の中で誓いのキスをして手を振るお二人の姿を妄想するだけで、涎が……。きっと、そのシーンは恋愛小説史上、最高の名シーンになると思うの。思わない?」  ニーナは、めんどくさくなったので肯定も否定もしなかった。 「その名シーンと共に、私は恋愛小説家としての第一歩を踏むの!こんな輝かしい始まりはないわ!」  この調子で、自分の夢のためにはエドヴィン王子がアレクサンドラと結婚しなければいけないと、本気の本気で信じきっているのがリーゼという変態。  そんな人間に、どうしたらエドヴィン王子と自分が結婚する可能性だけでも、植え付けることができるだろうか……。  できるなら、こんな面倒なことは考えたくない。99%無駄だから。でも1%の可能性に勝てば、晴れて不労所得生活が待っている。  その1%のために、ニーナは脳をフル回転させた。  そして、思いついたのが「婚約者試験を開く」というとんでもアイディアだったのだ。
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