1.萌えは私の栄養素

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 と、言うわけで。リーゼは現在1人で推しを愛でるのに没頭していた。 「よく飽きませんよね、リーゼ様は。同じ物体を見続けて、時間の無駄だと思わないんですか?」  ニーナはため息混じりで言う。 「逆に、どうやったらお二人に飽きると言うの?」  そう言うと、リーゼはまずエドヴィン王子の掌サイズ彫刻をつかみ、ニーナに見せつける。 「見て!ニーナ!」 「はいはい。見てます」 「いい!?」 「何がです」 「闇のように深い漆黒の髪の毛に、黄金色の目、服越しからでもわかる程、鍛え上げられた肉体に、長い手足。まるで神話の神の生まれ変わりとしか思えない、神々しいお姿だと、ニーナは思わない!?」 「…………確かに、かっこいいとは思いますが……」  ニーナは、リーゼがよく無機物相手にそこまで言えるな、と不気味にすら思った。  しかも、一国の王子を再現した、見る人が見たら不敬だと騒ぎ立てるような状況だ。 「ニーナ、聞いてますの?」 「はい、受け止めたくないけれどもしっかり、聞こえてしまっております」 「そう、それなら良かったわ」  何がだ、と突っ込みたくなるのを堪えながら、ニーナはリーゼがもう1つの掌サイズ彫刻を掴むのを黙って見届けた。 「ほら見て。このアレクサンドラ様の艶やかな銀髪。夜空に浮かぶ月のよう。それに、エメラルド色の目にバラ色の唇……この2人が口づけを交わす様子を妄想するだけで、天にも上る気持ちになれるなんて、最大の幸せだと思わない?」 「別に。思いませんね」 「薄情もの!いいわ!私がニーナの分までお2人をしっかり推してあげるんだから」 「何故それで薄情になるんですか、私が」  リーゼはニーナの問いかけをスルーし、アレクサンドラの掌サイズ彫刻をテーブルに置きながら、ようやく冷めた紅茶に口をつけた。  そんな様子を眺めながら、ニーナはずっと気になっていたことを尋ねた。 「リーゼ様は、エドヴィン王子のことがお好きですよね?」 「好き……ですって?そんな陳腐な言葉では語り尽くせない」 「ああはい。つまり好意があるという認識で宜しいですね」 「行為!?ニーナ!あなたなんてことを真昼間に言うの」 「はあ?」 「エドヴィン王子とアレクサンドラ様の行為なんて、妄想するだけで鼻血が止まらなくなるじゃない!」 「安心してください。そんな破廉恥なぶっ飛び妄想をするのはリーゼ様くらいです。それで、リーゼ様」 「何?」 「リーゼ様はお考えにならないのですか?」 「だから、何を」 「ご自分が、エドヴィン王子の恋人になれるかも、と言うことです」  ニーナがそう言うと、これまたニーナには理解できない程渋〜い表情をリーゼは浮かべた。 「……なんですか、その表情は」 「キモいこと言わないで」 「……なんですって?」 「私のような、ドブネズミがエドヴィン王子の横に立ってごらんなさい。世界の生物全てが怒り狂うのが目に見えてる!」 「ドブネズミって……」  ニーナは、少々頭を抱えた。  と言うのも、ニーナの主人は自分の価値というものを徹底的に勘違いをしているだけで無く、その勘違い故に、自分が非常に面倒臭くて仕方がない命令を、ある人間から下されているから。
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