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そもそも、リーゼは自分の眼鏡なしの顔を1度も見たことがなかった。
なので、リーゼは知らないのだ。
すみれ色の、春を思わせるふわふわと広がる、ゆるい癖がある長い髪。
月のようにまん丸な目は、まるで海のような深い青緑をしていて、まつ毛もふさふさ。
唇は何も塗らなくてもピンクの薔薇のように華やか。
胸こそ、小ぶりサイズではあるが、その華奢な体型だからこそ醸し出せる純粋さは、花の妖精と例えられることも珍しくなかった。
つまり、素顔のリーゼは美少女と評判だったのだ。
しかし、リーゼは奇跡……素顔のまま自分の姿を見られる視力を手に入れる……が起きない限り、生涯に渡って自分が美少女である自覚を持つことはできなかったりする。
ちなみに、家族と一緒に絵姿は描いてもらったことはあるのだが、残念なことにリーゼの美的センスが高すぎる故に、画家の粗ばかり目についてしまった。
その結果、その画家はちゃんとリーゼの素顔を表現していたにも関わらず
「ちゃんと見たままを表現できないなんて、画家の風上にも置けない!」
などと、不幸にもリーゼからダメ出しを食らってしまい、その画家は筆を折ってしまった。
そんなこんなで、リーゼがいかに美少女であるかを、リーゼ本人に伝わる術がないまま、この舞踏会まで年を重ねたリーゼは、この日から「エドヴィン王子&アレクサンドラ」のカップル萌えが始まってしまい、同時にリーゼの「自分は地味である」という勘違いも悪化してしまった。
この勘違いが、現在に至るまでニーナがリーゼに関して頭を悩ませ続ける原因となるのだった。
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