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「リーゼ様、1つお尋ねしてもよろしいですか?」
ニーナは、わざとらしく咳払いしてから、言葉を続ける。
「リーゼ様は、お手元の彫刻……」
「エドヴィン様とアレクサンドラ様、よ。ニーナ」
「……ええ、そうですね、そうでしたね。そのお2人にはリーゼ様お手製の、人間用の豪華な宝石やリボン、レースをふんだんに使ったお召し物をお着せしているのに」
「当然よ」
「……そうではなーくーて!」
「じゃあ、なあに?」
「リーゼ様ご自身は何故、自分の身なりに気を使わないのですか?」
「意味がないからよ」
即答だった。
「意味……ですか?」
「そう。ご覧なさい、この私を」
ドヤアと言いたげな表情で立ち上がるリーゼに、ニーナは何をどうご覧すればいいのか分からなかった。
「こんな、女らしさのかけらもない私に、アレクサンドラ様のようなお衣装を着せたらどう思われます?洋服が泣いてしまうでしょう?」
「いや、別にリーゼ様がアレクサンドラ様と同じような服を着る必要はないかと。ただ、今のリーゼ様みたいに、3サイズも上の……ブカブカな服を着るのも、どうかと思うのですが」
ブラウニー家は、他の貴族様に比べれば確かに少ない方かもしれないが、それでも貴族であることに変わりは無い。
流行の服くらいは、ちゃんと買えるだけの資産は持っている。
ところがリーゼは、決してブティックや外商では自分の服を買おうとせず、母親や知り合いのお古のドレスを積極的にもらうようにしていた。
「だって、創作をするのに、体の自由が効かないと邪魔で仕方がないんだもの。このお洋服だったら、汚しても誰からも怒られないし」
そんな理由で、自分の服を買わず、観賞用の彫刻のための服ばかりせっせと拵える令嬢は一体この世のどこにいるのか。いや、いるはずがない。
ニーナは、眼鏡なしのリーゼの素顔がどれだけ素晴らしいものであるかを知っているからこそ、余計にリーゼの意志の固さに虚しさすら覚えた。
(せっかく、綺麗に生まれたのに勿体無い……できることなら、リーゼ様にこそ、いろいろな洋服を着せて差し上げたいのに……)
ニーナは口にこそ出さないが、リーゼの妖精のような容姿が大好きだったからこそ、どうにか無理にでもオシャレをさせる口実を探していた。
そして、ついにそのきっかけが向こうからやってきたのだ。ほんのついさっき。
「ところでリーゼ様。話を変えますけど……本物のお二人にはお会いしたくないですか?」
「えっ!?今度はどこの舞踏会にお出になるの!?」
「舞踏会じゃないですよ」
「え?」
ニーナは、ニヤリと怪しい笑みを浮かべながら、リーゼに綺麗な便箋を見せつけた。
「王子の婚約者試験の招待状が届いたんです。リーゼ様にも」
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