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 果たして隆一は、駅の外にある喫煙所で、数人の中に紛れ込んでいた。ちょうど俺たち3人も喫煙者だ。さも当たり前のように彼に近づくと、隆一は半ば諦めていたのか、そのまま煙草をふかし続けていた。 「よお隆一、久しぶりだな」  秀太はあまりにも自然に、彼の隣を確保する。 「何吸ってんの?」 「……ラキスト」 「ほーん、相変わらず分かりやすいなあ。俺はJSP。ぽいっしょ?」  なんて言って、秀太もズボンのポケットから煙草を取り出し彼に見せる。 「お前、3年経っても童顔は変わんねえんだな。髭生やさなくて賢明だと思うぜ」 「うっせ」  なんて、直也も何のわだかまりも見せずに彼と会話をする。一方俺は、不器用だから、軽口から会話を始めるということができない。ただ黙って、事の成り行きを見守る。 「……お前ら、なんで東京にいんの? やっぱ、まだバンド続けてんの?」  隆一がそう、俺たちに聞く。 「おう。売れてねえけどな」 「……そっか。へへ、相変わらずすげえなあ」  隆一はそう自嘲気味に笑い、俺たちも黙って煙草を口にくわえ、ライターで火をつける。 「隆一は、今何してんの?」  秀太の問いに、隆一は一瞬黙り込む。 「……さっきの団体の活動に、加わらせてもらってる。お前らも見たろ」 「ふーん、そっか」 「あの団体、どういうとこなんだ? NPOとか?」  今度は直也が聞く番だった。隆一は、灰皿にタバコを押し付けたまま答えなかったが、分かっていたのか、直也は付け足すように言った。 「お前には悪いけどよ、あの団体のこと調べれば、大体察しはついちまうんだ。勝手に悟られることほど、嫌なもんはねえだろ」  その言葉で、しばらくして隆一は、灰皿に押し付けた煙草から手を離した。代わりに、ジャケットのポケットから箱を取り出し、もう一本口にくわえる。 「……あの団体はな、加害者家族を支援し合う活動をしてんだ」  彼が加えた煙草に、火が灯る。 「俺があそこで活動してんのは、もちろん俺もその一人だからだ。どうしようか悩んた俺を、あそこは優しく受け入れてくれた。だから、恩返しってわけじゃねえけど、仕事が休みの日とかに、活動に加わらせてもらってる」 「……そんなこと、初めて聞いたぞ」  秀太の言葉に、隆一は「だろうな」と返す。 「俺も知ったのは、ちょうど高3の、もうすぐ卒業すっかって時だったからよ。お前らが知らねえのも無理はない」  話が見えてこない。俺たちは、黙って隆一の言葉を待つ。 「俺の親父はよ、いわゆるヤクザだったんだってよ。ぺーぺーだったらしいけどな。で、俺が物心つく前に殺人やらかして、母ちゃんは既になんか覚悟持ってたんだろうな。俺に悟らせないように、まったく関係ない土地に移り住んで、一人で俺を育ててきた。お陰で俺は今まで、親父は死んだもんだと思って、呑気に今まで生きてきたよ。本当に呑気にな」  喫煙所にいるのは、もう俺たちだけだった。それぞれの吸うバラバラの煙が、歪に合わさり場を満たしていく。 「けど、やっぱり一生隠し通すなんてもんは無理らしい。ある時、近所中にバレてたよ、俺らは殺人やらかしたヤクザの家族だって。俺も母ちゃんも、出て行かざるを得なかった。ちょうど、俺も卒業するって時だったしな」 「……それで、訳も言わずバンドを抜けたってか」 「ああ、そうだよ」  直也の言葉に相槌が打たれた所で、会話は途切れた。
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