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「それは……なんとも口出ししにくい話だなあ」  合流したあと、ラーメン屋で事の仔細を話すと、勝は分かりやすく困惑していた。俺の隣では直也が、携帯で先の団体について検索をかけ、「あった」と声を出した。俺はその言葉に合わせ、四角い画面を覗き込む。  そこには、加害者家族が置かれている現状や受ける差別、それを乗り越えるために支え合う必要性について、事細かく書いてあった。俺はそんな、社会から除け者にされてしまった人たちの存在を初めて知ったし、それが身近にいたなんて、思いも寄らなかった。 「でも、やっぱり隆一さんは、もう音楽嫌いになっちゃったのかなあ」  勝の呟きに、直也が「そりゃそうだろ」と返す。 「もう目にしたくねえし耳にもしたくねえって感じなんじゃねえの? 音楽やりたくても、やれないって本人が思ってるんだからな」  途端に、ずっと黙っていた秀太が口を開いた。 「隆一は、まだ音楽好きだと思うよ」 「はあ? なんで分かんだよ」 「だってあいつ、ラキスト吸ってたし」    確かに隆一は、ラキスト――ラッキーストライクを吸っていると秀太に言っていた。 「ほら、よく言うじゃん。ラキストはロック好きが吸う煙草だって。本気でロック嫌いになったなら、あんなに他人からの目を気にしてる隆一が、そう言われかねない煙草をわざわざ吸うかなって思うんだよな。たまたまかもしんないけど」  俺たちは、ちゃんと高校を卒業するまで、互いに煙草を吸うことをしなかった。だから少なくとも、隆一が煙草を吸い始めたのは、自分の実情を知ってからのはずだ。もし秀太の言うことが正しければ、彼は自分の中の、音楽が好きだという気持ちを否定していないことになる。  なら、あいつはまだ音楽が好きなんだ。やっぱりあいつには、その気持ちから逃げて欲しくない。  いや、俺のこの考えは、きっとそんな綺麗な感情からじゃない。結局またあいつと、音楽に関して一緒に盛り上がって、笑い合いたいだけだ。互いの「好き」を共有できる空間がいかに幸せか、俺たちは充分に知っているはずだから。 「今度のライブ、隆一を呼ぼう」  俺が言うと、今度は皆が、俺を怪訝そうに見る番だった。 「そんなこと言ったって……どうやって呼ぶんだよ。あてはねえし、また会ったとしても、もう話してくれるとは限らねえぞ」 「そんなことない。まだがあるだろ」  直也の言葉に、俺は彼の持つ携帯の画面を指さした。直也が、尚更あり得ないといった様子で声を出す。 「お前まさか、このアドレスにメール送れって言わねえよな!?」 「なんだ、ダメなのか」 「当たり前だろ、これは団体向けのメールアドレスだぞ! それなのに、隆一個人を名指しで、しかも活動内容にまったく関係ないことを送るなんて、非常識にもほどがあるだろ!」 「いや、やろう」  秀太は至ってまっすぐな目で、俺たちを見ていた。 「方法がそれしかないなら、後悔しない方が絶対いい。それに、あいつが本当のことを打ち明けてくれたのに、俺たちが何もしないなんてことはしたくない。俺たちは今でもお前の味方だって、ちゃんと伝えたい。ここで手を差し伸べないで見捨てるなんてこと、絶対にしたくない」  その言葉に、直也は何も言えないようだった。仕方なさそうに頭をかくと、「分かったよ」とぶっきらぼうに言い放つ。そうして、どうにかライブへの招待のメールを、隆一宛に送った。彼が来てくれることを、心の底で願いながら。
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