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 隆一が、呆気に取られたように勝を見る。 「いや、もちろんそんな暇はないと思うし、今は金を出せるわけでも無いから、無理なお願いなのは分かってるんですけど、でも、どうせなら好きなことやりながら金稼げた方がいいんじゃないかなって思うし、4人見てそう思っただけなんですけど……」  勝はそう遠慮がちに弁明を口にする。バンドスタッフは、俺たちの代わりに広報をしたり、渉外を担当するマネージャーのような役割だ。俺たちが任せる仕事量によるが、大変なのには間違いないだろうし、余裕がなければできない仕事だろう。けれど、 「バンドスタッフって、隆一が今までやってくれてたことと大して変わらなくね?」  俺が考えていたことを、直也がそのまま口にする。 「確かに、そうすれば俺たちはまた、高校の頃みたいに楽できるな」 「おいおい、結局そんなことかよ……」  俺の言葉に、隆一は呆れたように返した。けれど、それでもそこには、今までで一番素直な笑みが浮かんでいた。 「まあでも、やらせてもらうよ。今の俺じゃ、どこまで暇作れるか分からないけど、お前たちに協力できるっていうなら、是非そうさせてもらいたい」 「本当か!?」  秀太はパッと顔を明るくさせると、隆一に抱きつく。 「ありがとう!! やっぱり隆一はいいやつだな! それに、また一緒に音楽やれるなんて、こんなに嬉しいことは無い!」  そうして、彼は俺たちを振り返る。 「そうと決まったら打ち上げ行こうぜ! もちろん、隆一も一緒にな!」 「おうよ! 早く行こうぜ!」  勝も一緒に盛り上がり、直也も満足気に頷く。5人で再び、皆で音楽をやっていける未来を想像して、俺も胸を躍らさずにはいられない。  「好き」を追いかけることは、簡単じゃない。それをできる環境は、とても幸せなことなんだと今でも思う。それでも、互いに手を取り合って、皆でその「好き」を実現できるような社会だったら、それほど素晴らしいものは無いだろう。  少なくとも俺は、「好き」なことを追いかけたい人のことを、見捨てるようなことはしたくないと、改めて思った。
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