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なんでギターを弾き、それを仕事にするのか。そう聞かれても、未だに明確な答えを返すことが出来ない。「好き」だから。それ以上に、何か理由が必要なのだろうか。
この場にいる4人は皆そうだ。皆、「好き」だから音楽をやっていて、それを誰かとやるのが「好き」だからこの場にいて、それ以上の理由を互いに求めていないのだ。そんな環境にいれて、俺は幸せ者だと、ふとした瞬間に思う。
「あー、やっとこの楽譜、身体に染み付いた気がする。本当、人志が作る曲って複雑だから、着いてくの大変」
ドラムをたたき終えて、勝が全てを投げ出すように、体の重心を一気に椅子の後ろへ預ける。
勝はつい最近、1年のサポート期間を経て、俺たちのバンドに正式加入してくれた、1歳年下のドラマーだ。昔に作った曲などもあるため、一週間後のライブに向けて、スタジオに集まって、改めて譜面起こしをしているのだ。
「直也とかも、ベース弾いてて頭おかしくなんないの?」
勝は隣にいる直也に同意を求めるけれど、彼は至ってどこ吹く風だった。
「まあ、人志の曲なんて昔からこんなもんだし、複雑になる要因の一つはそこのボーカルにもあるからな」
その言葉に、鼻歌交じりに水を飲んでいた秀太が「へ?」と間抜けな声を出す。
「まあまあ、皆人志に鍛えられてると思えばいいんじゃない? 人志に着いていけるのなんて、きっと俺たちだけじゃん」
結局秀太がそんなことを言って、皆悪い気はしなかったのか、話題は一旦打ち切られる。
「でもこれ、叩いてて思ったけど、普段の人志の曲とはちょっと違くない?」
「ああ、だってそれ、隆一が一緒に作った曲だから」
直也の言葉に、勝はあからさまに疑問符を浮かべる。
「りゅういちって……高校時代一緒にバンド組んでたとかいう人だっけ?」
「そうそう。スケジュール管理とか広報とかめっちゃ積極的にやってくれてて、超助かってたんだぜ」
そんな秀太の言葉に、勝は「ふーん」と相槌を打ちつつも、不思議そうに言う。
「やっぱ高校卒業するから辞めちまったの? さすがに上京は厳しかったとか」
勝の問いに、即座に返事をする者はいなかった。揃って言いあぐねるように首を傾げ、はっきりと言葉は返さない。
「なんだよ、お前らメンバーが辞めた理由も知らねえの? 普通相談とかされるだろ」
確かに勝の言う通りではあるのだ。普通、よっぽど険悪の仲ではない限り、何も告げずにいなくなるなんてことはあり得ない。
だが、隆一は本当に突然、高校を卒業すると同時に俺たちの前からいなくなったのだ。「バンドを辞める」という、その旨だけを伝える電話を最後に。それ以降電話はつながらないし、メールの返信も無いから、彼の真意を知る由が無くなってしまい、なんとなく曖昧にしたまま、これまでを過ごしてきた。
「……やっぱりおかしいよな。あの隆一が、何も言わないで辞めるなんて」
俺はそう呟いた。けれど、秀太が打って変わって、真面目に言葉を返す。
「そうだけど……いろいろあんだろ。あいつ、母子家庭だし」
同じ環境で育った同士だからか、秀太は隆一とは特に仲が良かった。だから、何か思うところがあるのかもしれないと思うと、その言葉に強く返すことができない。
「……ほら、もう気にしててもしゃーないし、さっさと次の曲行こうぜ」
直也が切り替えるように声を出し、秀太もマイクを再び手にし、勝も椅子に座り直す。それを見て、俺もギターを抱え直すしかなかった。
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