ワイフのkiss

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 新婚ほやほやの蜜月の頃から家のワイフは私が会社から帰宅すると、まるで逢い引きの約束をした恋人を待ち焦がれたように私の首っ玉に抱きつき、私の頬などにキスをする。  それは子供が出来てからも続いたからこの奇跡的な夫婦仲がいつまでサスティナブルだろうと思っていたら子供がコロナに感染してからぷっつり途絶えてしまった。 「だって、もし、あなたが感染してて、あたしまで感染したらどうするのよ」  確かにと一旦は思ったが、一緒にマスクもせずに部屋の中でずっと過ごすのだからキスの触れ合いだけ止めたところで意味ないではないかと考え直した。ま、しかし、気持ちは分からないでもない。  それはまあ良いとして家はコロナ保険に入っているのだが、子供が感染したことで私とワイフがみなし陽性者としてカウントされ、お陰で一人当たり約10万円、合計30万円ほどの保険金を得たことをきっかけにワイフのえげつなさが露見した。  なんと彼女は更に保険金を得ようと親元に行き、その後、保健所や病院に両親もみなし陽性者になるかどうかと電話で問い合わせしたのだ。  流石にそれは駄目だったのだが、無料のPCR検査を受けると、500円分のクオカードをもらえることに味を占め、検査は同日でなければ何度でも受けられるのを幸いに日毎に受け、こんなおいしいバイトって他にないわねと手放しで喜ぶのだ。  また、そのクオカードをくれる業者というのが悪質で検査について国や自治体が明確な基準を設けていないから検査にコストをかけない業者ほど儲かる悪構造になっているのに乗じて顧客の検体を捨てて陰性通知をメールで送るだけで済ましているのだ。つまり陰性の結果だけ出していれば絶対損しないどころかPCR検査の費用が通常3千円位かかるところをその半分以下で済み、約1万円が補助金として自治体から支払われるからPCR検査一回に付き8千円以上も利幅がある為、500円分のクオカードで誘うのは訳ないことなのだ。而も個人情報と問診票を書きさえすれば検査数にカウントされるからバイトの学生に何度も検査を受けさせたり名簿屋から買った情報をまんま打ち込んだりして検査数を水増しして補助金をがっぽり受け取るというあくどさだ。その補助金は我々の血税で賄われている訳で税金を食い物にするのは、何も政府だけではないのだ。  そういう濡れ手で粟を恣にする悪徳業者を知っている私は、お前が検査を受けている所は、その手の業者じゃないかと問い詰めるべくワイフに微に入りて細を穿って悪徳業者について説明すると、彼女はそんなに言うならと他で検査を受けることにした。  その理由がまたとんでもないことに子供が軽症で済んだこともあり、オミクロン株は只の風邪というデマを信じ切り、オミクロン株を軽く見るに至ったワイフは、陽性になれば、また保険金がもらえると踏んで、そうなりゃ儲けものとばかりに実際になるまで何度も検査を受けるようになってしまったのだ。  嗚呼、何という女なのだ。こういう女は後遺症に罹患してロングコビッドに苦しめばいいのではと思う私の心は、どんどんワイフから離れてゆく・・・で、後遺症について話してみると、そんなの(後遺症に罹患する人)全然少数派よと意に介さず全く陽性を恐れなくなった彼女は、タブーとしていたキスを解禁してしまったのだった。いやはや、この女を愛して良いものか否か・・・
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