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5640628(ころしのらっぱ)
ポーンと時報がなって日付が変わった。ながら勉強は効率が悪いと母親が言うがラジオのパーソナリティーは深夜の友だ。恋人のいない拓郎にとって形だけとはいえ寄り添ってくれると試験対策が捗る。「あ、そろそろ寝ようかな」
明日も学校があるし、ラジオを消してベッドに潜り込んだ。
「おやすみなさい」
ラジオに向かって挨拶をして目を閉じた。
「おはようございます。昨日はありがとうございました」
すると臨時ニュースがながれた。『緊急速報です。本日未明、東京都新宿にて通り魔事件が発生しました』
「えっ……」
拓郎の顔から血の気が引いた。
『被害者は若い女性で、鋭利な刃物で複数回刺されたとのことです』
心臓が激しく脈打ち始めた。
そして信じられない事だが机にラッパの花が咲いた。
「逆恨みかよ!」
拓郎は素早く清め塩を撒いた。
これはスピリチュアルな怪奇現象で愛する者の幸せを祈れない人間の怨念がもたらすものだと言われている。
しかし……、このニュースを聞いたのは初めてだったはずだ。
どうして自分が恨まれる、または縋られるのか。さっぱりわからない。
拓郎はこのニュースが気にかかって眠れずにいた。そして朝になり登校するとクラス中がその話題で持ちきりだった。
通り魔事件が起きたことは知っていても詳しい内容までは知らないようで、「怖かったねー」
とか言ってるだけで詳しい話は聞かない。みんな興味津々という感じで事件の真相を知りたがっていた。
そこで隣の席の女子生徒、美奈代に事件の詳細を聞くことにした。拓郎はオカルト研究会に所属しているのである程度の知識を持っているが、殺人現場にラッパの花が咲く怪奇現象は誰も説明できない。だから他のクラスメイトより詳しい情報が得られると思っていたのだ。しかし、彼女の反応はあまり良くなかった。
むしろ拓郎のことを不気味そうに見つめた。
どうしたのかと聞くと彼女は声をひそめて言った。
その事件ってね、私達のクラスの女子のことで……。ほら、あの人だよ。今入院している……。
拓郎は耳を疑った。だって彼女はつい先日まで元気に学校に通っていて、しかも明日から退院するはずだったからだ。
どうしてそんなことを知っているんだろう?
不思議そうな顔をしていたらしい。美奈代は答えてくれた。彼女、亡くなったんだよ。殺されたみたい……。
頭が真っ白になった。被害者は下島公佳
出欠確認を免除される人物だ。始業式に顔を出したきり見かけない。ナイジェリア駐在員の帰国子女でミオパチーなんちゃらという難病を患っている。
クラスの女子たちは屋上に集まってワンワン泣いている。そこから現場の病院が見えるのだ。拓郎も思わずもらい泣きした。
家族が運営する闘病ブログを通じてわずかながら交流があったからだ。どんな短いメッセージにも前向きなレスを返してくれる。公佳はアイドルだった。
女子たちと一緒に名前を絶叫した。
でもすぐに冷静になって質問をした。犯人は誰なのか、いつ頃なのか、凶器は何だったのか、どうやって殺したのか、なぜ殺したのか。だが返ってきたのは残酷な言葉だけだった。
「わからないよ!」
「そんなの偶然だよ」
で、その日は終わった。
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