キミカ・シモジマ

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キミカ・シモジマ

「タクロー・タヨシ。キミカ・シモジマを知っているだろう?」 どうしてアフリカの奥地で同窓生の名前が出るんだ、拓郎は不信感を持った。 「ほら、ずっと入院してた」 美奈代が促すまでもない。おぼえている。 「薬剤性ミオパチーで治療中に亡ったと記憶してますが?」 拓郎は慎重に言葉を選ぶ。ジャンゴの素性が判らないからだ。 「ボコ・ハラムに()られたんだ。しかも連中はしくじった」 アフェフェは声を震わせた。しかし拓郎は冷静だ。クラスメイトの意外な最期を知っても共感できない。確かにコメント欄で交流はあったが拓郎の恋人はあくまでラジオだった。 「それで貴方は彼女と何の関係が?」 するとアフェフェが引き出しから手紙の束を取り出した。日本郵便の切手はナイジェリア宛ての封筒に貼ってある。そこに記された社名に拓郎は驚いた。 【旭日製薬】 アフェフェが中身を取り出す。大判写真が一枚。 213c4750-f7e0-4d3e-9498-d89c9f666697 「下島公佳が誕生日に撮った。最後の晴れ姿だ、娘も同然だったよ」 かける言葉もなかった。拓郎は便箋を手に取った。ずぶ濡れにしてしまった。 アフェフェは公佳の治療を支援していたらしく父娘も同然の深い文通がうかがえる。「もうだめです」と目頭を押さえながら返した。 「Ⅱ型薬剤性ミオパチーは筋肉が衰える不可逆性の病気だ。進行をダイナミン投与で遅らせるしかない」 それを聞いて拓郎はようやく腑に落ちた。「仔牛脳下垂体髄液から抽出されますよね」 アフェフェはうなづいた。「そうだ。私は牧場主だ。下島為雄はとてもよくしてくれた」 遺影が飾られている。 「なるほど。しかしボコハラムは彼女の命を?」 「盗んだ牛は重要な資金源だ。知っての通りBSEの影響で日本製の牛製品は20年以上も中国が輸入を禁止している、彼らは急増しているⅡ型薬剤性ミオパチー患者にダイナミンを売りさばこうとした。ところが規制がある。そこで彼らは私の牛をオーストラリアに持ち出そうとした。現地で加工しカンボジアに輸出する。そこから先は中国へ一直線だ」 火星がボソッと言った。 「為雄は正義感が強すぎたのよ」 なるほど。ルートを潰そうとしていたわけだ。 「さっきしくじったとおっしゃいましたが?」 拓郎か首をかしげる。火星が補足した。 「脅しに屈しなかったら、とうとう本当に娘が殺された」 「まぁ、そういうことだ。拓郎」 「でもそれって何年も前の話ですよね。密売ルートは守られたんですか? そして僕を襲った理由もわからない」 拓郎にとっては謎だらけだ。それにアフェフェの説明はどこか引っかかる。 「君は『夜はケッパレ!必死こいて朝まで!』に投書をしていたよね」 その番組名をナイジェリア人から聞くとは夢想だにしなかった。顔から火が出るほど恥ずかしい。黒歴史だ。 「ラジオが僕の恋人でした」
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