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みずへび座ホットライン
居ても立っても居られなくなって拓郎は吼えた。鎮静剤の効果で生あくびより緩いうめきになったが「そんなこと俺には関係がない。家に帰らせてくれ」
「23時20分、そろそろお月様の時間ですね」
冴羽遼子がダニエルウェリントンを眺めた。「ラジオを持ってきてくれ」
アフェフェフが美奈代にポータブルラジオを運ばせた。家電製品ではない。
ミドルタワーPCほどのサイズでメーターや仰々しいスイッチが付いている。
パナソニックのクーガー。昭和時代に製造されたトランジスタラジオでFM帯より高い周波数をカバーしている。「これはBCL受信機と呼ばれる物です」
火星晶が慣れた手つきでダイアルをいじっている。ザァザァーと雨音がする。
「えっ? 今は乾期なんだけど?」
拓郎が目を見開いた。満月のようだ。ベランダからはみずへび座が見える。
火星がなおも調整すると土砂降りは寝息のように静まった。やがてそれは野暮ったい男の声に変わった。
『こちらは東海国際放送です。周波数5555KHz。出力250Kw……』
なつかしいステージョンジングルが聞こえてきた。
「TKHじゃないか! ここで聞けるなんて!」
拓郎は涙がこみあげてきた。短波放送は地球の裏側まで届く。
『夜はゆるゆる~♪ まだ宵の口~~♪♪』
ちなみにナイジェリアと日本の時差は8時間である。受験勉強を思い出す。
夜ゆるは夜パレの前座で夕方5時からの生ワイド番組だ。偏差値70の東海技術大学に入るため帰宅するなりスマホを親に預け毎日ネット断ちを徹底した。
参考書を広げていた日々が鮮明によみがえる。しかしここはアフリカだ。
どこかしら違和感がある。「あんたはいったい、俺に何をさせたいんだ?」
「君は見ているはずだ。あの夜」
ヌッとアフェフェが身を乗り出す。
ポーンと時報が鳴った。
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