ニジェール・デルタ

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ニジェール・デルタ

ナイジェリア南部は水源に恵まれている。そして石油資源も豊富だ。 「埋蔵量世界6位が何だというんだ。何もかもオイルまみれだ」 年老いた日本人はマングローブ林に向かって毒づいた。夜明け前の地平線に急峻な山々が連なっている。それらは火山帯でもないのに白煙を吹いている、 「甘い汁は石油からできているんです」 冴羽遼子は控えめに揶揄した。車は泥水を跳ねながら南へ向かう。 「政治家から軍人まで金のためなら平気で手を汚す」 老人の影がガタンと揺れた。 「欲に眩んで若者の未来まで閉ざしたのは老害じゃないですか。おかげで一攫千金を狙う輩に仕え、電力破壊工作から誘拐まで何でもやって日銭を稼ぐ」 「シグマ自動車工業はそうやってニジェール・デルタに根を張ったろう」 「誹謗中傷ですよ」 遼子は意に介さず急ハンドルを切る。後部席から苦情が出た。「痛ぇな!」 拓郎は頭をさすりながら席に座りなおした。四駆は大しけのように荒れ狂う。 「背中の傷はどうなの? 快癒しているはずよ」 遼子はバックミラー越しに確認した。拓郎が皸だらけの顔を撫でている。 「うぇー。くせぇ。シグマミン軟膏、塗りすぎだろ!」 「君はそれで命を救われたわけだ。したがって恩人に報いる義務がある」 老人が拓郎をいさめた。 「頼んでねぇよ。ところでさっきから聞いてりゃ、アンタら内輪もめか?」 ビル屋上にあったタンホイザーSG、遼子に対する老人の毒づき。それらから察するにシグマ自動車工業と旭日製薬は癒着関係にある。拓郎を連れ出した理由も共通の利益にかなったものだった。ところが土壇場で利害関係が生じた。 「それならば、どうして火星晶が君たちの脱出をサポート出来たと思うかね?重火器まで準備周到だ」 老人は拓郎をいとも簡単に論破した。「自演だと言いたいのか?」 「想像に任せる。だが少なくともこれだけは明確にしておこう。私は味方だ」 わざとらしく拓郎はうめいた。「俺をこんな目に逢わせて何が目的だ?」 すると助手席に花が咲いた。ラッパの花だ。「君の視覚だ。見えるだろう?」 「oops!」 拓郎は思わず嘔吐した。キングコブラの様に鎌首をもたげゆっくり開花する。 「DMT……デジタル・メディシン・テクノロジーの中毒患者は君だけではない。」
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