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[ジュピター・エドワーズ]
そう記された表札を見つけ、一人の兵士が表札のかかった部屋のドアを軽く叩いた。
「どーぞ」
部屋の中から聞こえる透き通るような声に導かれ、兵士は彼女へと通じる扉ををゆっくりと開けると、そっと部屋の中へ入った。
「失礼致します。アメリカ海兵隊所属、ウィリアム・スアレス大尉です」
如何にも軍人ですと言わんばかりの、短く端的な自己紹介が、現役の医師であるジュピターの背筋をしゃきっとさせる。
とある国で発生したクーデターにより、大量に発生した難民への医療支援のために、アメリカ合衆国政府によって派遣された彼女が、拠点として生活していた難民キャンプが攻撃されたのは、今から5日程前の事だ。
この事件は世界的に大きく報道され、アメリカ合衆国としても、自国のメンツにかけてジュピターの救出に全勢力を注いだのは言うまでもなかった。
救出作戦は迅速に計画され、この作戦のために招集されたアメリカ海軍の特殊部隊[ネイビー・シールズ]は、作戦を立案したCIAのエージェントであるカズ・イトウとのブリーフィングを終えると、速やかにジュピターを救出し、作戦を成功させた。
その実働部隊の指揮をとったのが、ウィリアム大尉である。
ウィリアムは見事に作戦を成功させ、ジュピターを早期に母国に連れ帰ることに成功したが、彼女は拉致された先でかなりの虐待を受けていたらしく、救出先からアメリカに即時輸送された後、そのまま緊急入院させる措置が取られた。
ウィリアムは今回、搬送されたジュピターの様子を見舞うために、アメリカ海軍を代表して、彼女が入院している病院を訪れたのだった。
「ジュピターさん、お加減は如何でしょうか?」
ウィリアムはびしっと敬礼を決めた後で、そうジュピターの体を見舞い、用意してきた花束を、彼女の側に居た父親に手渡した。
「ありがとう大尉。娘を救ってくれた君達は、私達の誇りだ」
父親が目に涙を溜めながらウィリアムに礼を述べると、その場に居たジュピターの家族からも拍手が沸き起こる。
そんな光景に心を打たれたウィリアムも、手で両目を覆いながらそれに応じてみせた。
「そこに座って大尉。折角だから、少しお話しましょう」
病室のベッドの上から、ジュピター自身の方に向けられた一つの椅子を手で指し、ジュピターがそこに座るようにとウィリアムに促す。
ウィリアムも言われた通りにその席に着席すると、楽にするようにとのリクエストにも応じた。
ジュピターはとても若く、容姿端麗な可愛らしい女性だった。
その彼女が、なぜ自ら危険な紛争地域に行く事を望んだのか。
傷ついた彼女を助けた時から、ウィリアムはその事だけが気になっており、丁度話のつなぎにもなりそうだったので、彼は何気なくその話題について触れてみる事にした。
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