1章 赤い石

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1章 赤い石

『国境がなくなって、世界中が一つの国になれば、戦争はなくなる』 今から30年前、初代皇帝はプリモス兵器を独占して、よその国を蹂躙(じゅうりん)しながら、そう言ったらしい。 私の連れは、「そんなの、ただお山の大将になりたい奴が言った、たわ言だ」と言う。 それでもとにかく、トゥミスが大帝国になって国境がなくなったおかげで、昔より旅をしやすくなったのは本当だ。 どんなところでも、首都トゥミスと繋がる街道がつづいているし、宿場もある。 今いるこの酒場みたいに。 「おい。ここは子供の来るような、遊び場じゃないぞ」 酒場の店主は、使い古した木目(もくめ)のカウンターに、注文の品を置くついでに嫌味を言った。 ララは、ドキリとしつつも、一応まわりを確認した。両隣に客はいない。やっぱり自分が言われているのだ。 「私、十六よ。歳より若く見えるってよく言われるけど」 そうは言っても、本当はまだ十三だ。赤い髪に(ふち)どられた(おさ)な顔を、いかにも心外だといわんばかりに曇らせる。 髪の薄い店主は、疑わしげな目をむけている。 「ちゃんとお金だって払ってあるじゃない。食事しにきただけだから、お酒は頼まなかったけど、普段はお酒もタバコもやるんだから」 ララはポケットからタバコを取り出し、口にくわえて魔法で火をつけた。肺に煙が入らないように吸ってみせる。 店主は怪訝(けげん)そうにそれを見たが、ほかの客が呼んだので注文をとりに行った。 店主が目を離すと、ララはすぐに煙を吐きだし、タバコの火をもみ消した。興味本位で一本持っていただけで、タバコをやるなんていうのは嘘だ。煙たくて吸えたもんじゃない。 一人で酒場に入ったのだって、本当は今日が初めてだった。 歳を偽って酒を飲みにきたわけではなかったから、目の前にあるのは好物の糖蜜プディングだけだ。蜜の染みたパン切れの塊が、ほかほかと甘い湯気を立てている。 でも、せっかく頼んだおいしそうなおやつも、緊張でほとんどのどを通らない。どんなにとりつくろっても、十三歳の少女にとって、酒場は未知の領域だ。 そんな場所にあえて一人で乗りこんだのは、人を探すためだった。
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