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昨日の夜、旅の道連れとケンカ別れしてしまい、目的地に行くための新しい案内役を、急遽探さなければならなかったのだ。
ララは気持ちを落ち着けようと深呼吸し、かえってよどんだ空気を吸いこんでせきこんでしまった。
まっ昼間から、店の中はむさ苦しい男達でいっぱいで、タバコの煙がもうもうとしている。ララのように食事だけの客もいるし、酔っている客もいる。テーブルをかこんで賭け事をしている客もいた。
ほとんどが地元の客のようだが、二階に宿があるので、旅行者風の荷物を抱えた客もちらほら混じっている。
あの中にもしかしたら、自分と同じ目的地の人もいるかもしれない。
ララは気をとり直して、短めのスカートをはいた脚を大人っぽく組んでみた。
木いちご色の波うった赤毛を、薄紅色のマニキュアをした指でかきあげてみた。実はこのマニキュアも本物ではなく、赤い花びらを擦りつけて染めていた。同じものを唇に塗って、口紅のかわりにしている。色は薄くても、それっぽく見えるのだ。
めくれ上がったスカートの裾を引っ張りながら、人の群れを観察した。でも口うるさい店主以外、おめかしした自分に注意を払ってくれる人は見当たらない。
やっぱり自分から声をかけなきゃダメかな?
想像しただけでララの顔はまっ赤になってしまった。澄まし顔をしていても、動揺は隠しきれない。カウンターの下では、床に届かない足を無意識にぶらぶらさせたり、何度も組み替えてたりしてしまっていた。
「君、一人?」
思わず肩を飛びあがらせ、声のしたほうを振り返った。
日焼けした肌に白い歯がチャーミングな青年が、ニコニコしながらこっちを見ている。金髪を肩までのばし、素肌になめし革の外套を直接着ていて、胸毛むき出しだ。格好はちょっと変だけど、顔は結構かっこいいかな……?
「一人だけど」
すぐに平静を装い、用意していた答えを返す。
ずっと声をかけられるのを期待していたのに、本当に声をかけられると、やっぱり驚く。
ぎこちなく笑って、上目遣いで見やったら、相手もじっと見つめ返してきた。ララはなんとなくプディングのほうに視線を落とした。男の熱い視線が、スプーンを持った子供っぽい指先に注がれる。
「隣いい?」
男はそう言うと、答えるよりも先に座ってきた。少しチタニアなまりがある。
それからふと、さっきからララの胸もとを彩っている小さな球形の石に気づき、話題にした。
「そのペンダント、綺麗だね。なんて石?」
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