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本当に石に興味があるというよりは、話の取っかかりを掴みたいようだった。それはララも同じだったので、自慢の石がよく見えるように、男の目の前につまみあげて説明した。
「私もなんて石かは知らないの。でも、よく見て」
深い緋色をしたその石は、中心から夕陽のような赤い光を放っていた。
「光が映りこんでるんじゃなくて、石自体が光ってるのわかるでしょ?」
男はさっきまでと違って口を半開きにして、妖しく輝く赤い石を、食い入るように見つめている。
「すごいな。こりゃあ、魔法の石だ!」
まわりにいた客がちらっとこちらを見た。
ララはあわてて人さし指を立て、
「大声出さないで」と言った。
「それじゃあ、君は魔法使いなのか」
驚きとともに好奇の目で見られ、「まあね」とララは苦笑いした。
「若いのにすごいなあ。その石にはどんな力が?」
こんな大げさな反応をされるなら、わざわざ見せなければよかったかな。
「それも知らないの。この石はおばあちゃんの形見で、ママに渡してって頼まれてるんだ。ママはマヌ王国のヴァータナに離れて住んでて、これから行くところ」
「へえー、大変だね。ここまでずっと一人で来たの?」
「途中まで連れはいたんだけど、今は別れたから一人。でも、私一人だと、どうやって行ったらいいか分からなくて。道が通ってないし、大きな森を越えてかなきゃならないんでしょう?」
ララはさりげなく本題を切り出した。革外套の男に、期待の眼差しを送ってみる。今度もやっぱり、じーっと見つめ返してきた。
「なんなら俺がつきあってやろうか? 行くつもりはなかったけど、どうせ旅の途中で、これからどこ行くか決めてなかったから」
思いのほか簡単にことが運んだので、ララは驚いて、青い両目を見開いた。
「本当にいいの!?」
一気に緊張が解け、満面の笑みがあふれた。
「魔法使いが仲間になるなんて言ったら、みんな驚くよ。ましてや女の子だったら、大歓迎さ」
「みんな……?」
「友達と一緒なんだ。大丈夫。いい奴らだから」
男が仲間と言って指さしたのは、さっきから隅のほうで賭け事をやっていた男達だった。そこだけ、ひと際よどんだ空気が漂い、ときどき勝った負けたと酒臭い罵声があがり、一人は噛みタバコをくちゃくちゃやりながら、泥足をテーブルにのせている。
ララの表情が引きつった。
──でも見かけで人を判断しちゃいけないって言うし、助けてくれるっていうんだから、案外話してみればいい人たちなのかも……
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