21人が本棚に入れています
本棚に追加
尻ごみしていると、いきなり店の手押し戸が勢いよく開き、仏頂面で手足の長いカカシみたいな男が踏みこんできた。
「カラス!」
さっき言った、途中まで一緒だった連れだ。正確に言うと、昨日まで。
カラスはいつものように寝不足で血走った目をして、大股で歩いてくると、「なにやってんだ、バカ」と、気に食わなそうにララの腕をつかんだ。
茶色い髪に茶色い瞳。目の下には濃いクマがあり、血色が悪く、痩せている。髪はボサボサで、唇もガサガサ。まだ二十二歳だというのに、その顔つきに若者らしい爽やかさはまるでない。
でも今日だけとくに体調が悪くてそうなっているわけじゃない。普段からそういう顏なのだ。
目つきの悪さに加えて、眉間から右頬にかけて走っている傷痕が、結構な凄みをきかせている。話すと強烈なチタニアなまりがある。
「なんだよ、男連れか」
革外套の男が舌打ちするのが聞こえた。
──なに、その態度!?
「なにしにきたの? 邪魔しないでよ」
ララは眉をつりあげ、カラスの手を振り払って立ちあがった。立つと背が低いのがばれてしまい、大人っぽくしていたのが水の泡だ。
「迎えにきてやったんだ」
「私、この人と一緒に行くことにしたから」
唇をとがらせてそう宣言し、男の隣に並んだ。
「下らねえこと言ってねえで、さっさと来いっ。クソガキ」
また手荒に腕をつかんで引きずっていこうとしたので、ララは抵抗した。
「離してよっ!」
「やめろよ。嫌がってんだろ」
革外套の男があいだに割って入り、カラスの薄い胸板を突き飛ばした。
「うるせえな!」カラスも男を突き返す。
「なにすんだ、てめえ! さっきから店の外うろついてると思ったら……」
「おまえこそ、関係ねえだろ! ガキ相手に色目使う変態が」
小競りあいに反応して、客達の視線が二人に集まった。それまでのおしゃべりがピタリと止む。
賭けをしていた男達のなかから何人かが立ちあがり、まわりをとりかこんだ。
緊迫した空気に、ララは立ちすくんだ。
それでもカラスが引く気配はない。やりあう気満々で、眼をつけあっている。
革外套の男のほうががっしりした体つきをしているが、カラスのほうが背は高い。
つかまれている腕が、次第に静電気をおびてピリピリしてきた。カラスの茶色い髪がふわりと逆立った。
最初のコメントを投稿しよう!