1章 赤い石

5/18
前へ
/93ページ
次へ
「ちょっと、待っ──……」 ララが言い終わるより早く、カラスが空いているほうの手を振りあげ、指先から青白い電光がほとばしった。 一瞬のことだったので、知らない人が見ていたら、なにが起きたのかわからなかっただろう。 次の瞬間には、カラスの魔法のせいで、まわりにいた男たちは全員気絶して倒れていた。 突然の出来事に、場の空気は凍りついた。静まり返ったまま誰も動こうとしない。気絶ではなく、殺したと思われたかもしれない。みな、倒れた男たちの真ん中に立っているカラスとララに注目している。 カラスは苦みばしった顔をしたまま、倒れている男を踏み越えて、なんの説明もなしに出ていってしまった。 誰かが小声で「チタニア人か……」とつぶやくのが聞こえた。チタニアなまりはないが、ララもチタニア人だ。 「あの。ただ、気絶してるだけだから……」 ララは自分まで白い目で見られてしまい、いたたまれなくなった。 倒れているのを踏まないようにまたぐと、おとなしくカラスにつづいて店を出た。
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加