1章 赤い石

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「まったく、なに考えてんだ。変な本の読みすぎで、脳みそ腐ってんじゃねえの? あんなのにホイホイついてったら、やぶの中にでも連れこまれて、食いものにされてポイッだ」 カラスはサトウキビ畑を横切る一本道を歩きながら、恨みがましく言った。かじったサトウキビを、そこらに乱暴に投げ捨てる。 「カラスは悪く考えすぎだよ。それにカラスが『文句があるなら一人で行け』って言ったんじゃない。だからそうしただけだもん……」 昨日の晩、宿でケンカして、そう捨て台詞(ゼリフ)を吐かれたのだ。 ケンカの原因自体はつまらないことだったのだが、ララは言われたことにカッとなって宿を飛び出してしまい、通りすがりにあった納屋に忍びこんで一夜を明かした。 もしかしたら探しにくるかもしれないと思ったが、結局明け方になっても、カラスはあらわれなかった。だから、カラスのことなんか当てにせず、ヴァータナまでの別の案内人を探そうという結論に至ったのだ。 でも、そんな捨て台詞を吐いたにも関わらず、カラスは当然のような顔で酒場にあらわれ、今もララの前を歩いている。昨夜のやりとりに対する謝罪の言葉は、まだ一言もなしだ。謝る気はないらしい。ララもそうだ。 「なんで迎えにきたの?」 「先生に、おまえを送り届けるって約束しちまったからな」 先生と呼んでいるのは、ララのおばあちゃんのことだ。おばあちゃんは高名な魔法使いで、カラスはその弟子だった。 「それだけ?」 「それがなかったら、こんなみっともないバカと一緒になんかいたくないね」 こっちこそ──と言いたいところだが、火に油を注いでも仕方がない。ララは黙って、鼻息を荒くした。
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