世界に虹がある理由

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 *** 「あーうん、藍子ちゃんねえ」  突破口は、意外なところから見つかるものである。というか、私が混乱していて簡単なことにも気づいていなかったという方が正しいのだが。 「きっと単純に、ピンクが好きなんだと思うけどねえ」 「ピンクが好き、ですか?」 「そうそう」  あまりにも困り果てて、先輩の先生に相談してみた私。桂木(かつらぎ)先生は、この幼稚園に務めて十二年にもなる大ベテランだ。今は年少組クラスの方を担当しているので、仕事の時間に頼ることはできないのだが、一年目にはつきっきりで指導してもらって大変世話になったのである。 「ほら、藍子ちゃんって結構ピンクのスカート履いてること多いと思わない?運動靴もピンクだし、リボンもピンク。お遊戯服はまあ、みんなと同じ水色だけども」 「……そういえば」  私を困らせる面倒な子、というイメージが先だってしまっていたが。藍子ちゃんは見た目で言うなら、ピンクのリボンが似合う可愛らしい女の子だ。そして、確かにスカートなんかはいつもピンクのものを着ているような気がする。ピンクのワンピースの上に、幼稚園指定のお遊戯服を羽織っていることも少なくないかもしれない。  ピンクで塗るのはピンクが好きだから。そんな、単純なことにも気づいてなかったなんてなんとも馬鹿らしい話なのだが。 「藍子ちゃんが書いた絵、見た?他の子の絵よりずっとピンク一色でしょ」  桂木先生は笑いながら言った。 「他の子の絵は、空とか家の屋根とか、一番広い空白をピンクに染めるくらいなんだけど。自分の絵はそれどころじゃないっていうか。空もピンク、草原もピンク、海もピンクで人の髪の毛とか服とかもみんなピンクにしちゃう。きっと、すごく強い思い入れがあってピンクに拘ってる。何か理由があるんだと思うな」  だからさ、と彼女は続けた。 「とりあえず、怒ったりしないで……藍子ちゃんに話を聴いてみたらどう?ゆっくり落ち着いて尋ねれば、藍子ちゃんも話してくれるかもしれないよ」
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