出逢い〜♂編〜

1/1
前へ
/10ページ
次へ

出逢い〜♂編〜

 それは突然、親父(おやじ)からの言葉で始まった。 「理玖(りく)、お父さんは美和(みわ)さんと再婚することを決めたんだ」  薄々そうなることは気づいてはいた。  オレの本当の母親は、オレがまだ小さい頃に、外で男を作って出ていった。オレと親父はあっさりと捨てられた。  親父は不器用なりにも、必死にオレの事を育ててくれた、だから… 「親父が決めたなら、オレは賛成だよ」  親父の再婚相手に決めた美和さんは、オレも何度か会ったことがある。  母親の温もりを知らずに育ったオレは、美和さんの優しさが心地よかった。 「今度、お互いの家族で、挨拶がてらに会食をすることになった。理玖も来てくれよ」 「おう、もちろん行く。…あの子も来るんだろ?」 「未来ちゃんのことか?それならもちろん来てくれるぞ」  未来の存在は、美和さんと親父とオレ三人で、何度か会って話してる内に教えてもらった。 「これが私の娘の未来よ」  嬉しそうにケータイの画面を見せてくる美和さん。 はっきり言って興味は然程(さほど)はなかったけど…  ケータイの画面に映し出された無邪気に笑う未来の顔が、あまりにもかわいすぎて、言葉が出なかった事を今でも覚えている。 __約束の日。  オレはこの日が来るのが待ち遠しかった。  親父と美和さんの挨拶なんかより、初めて未来と会えることの方がオレにとっては重要だった。  オレと親父がホテルのレストランに到着して、しばらくすると、レストランの入口に二人の女性の姿が見えた。 「アレじゃね?」 「あ、あぁ本当だ、来たみたいだな」  そう言って親父は小さく手を振った。  それに気づいた美和さんも手を振りながら近づいてきた。  でもオレは、そんな美和さんより、隣を歩く未来の方が気になって仕方がない。 「綾瀬さん、理玖くん、お待たせしました」  照れくさそうに、笑いながら挨拶をする美和さんの後ろに、隠れるかのように未来は立っていた。 「やぁ、美和(みわ)さん、未来ちゃん、よく来てくれたね、さぁ、座って」  親父が一声かけるも、座ったのは美和さんだけだった。 「未来…?どうしたの?早く座りなさい?」  美和さんにそう促されるも、未来は突っ立ったままだ。 「綾瀬さんの息子さんって…」  未来は、言いにくそうにオレを見て言った。 「あ、あぁ…私の息子の理玖だ。宜しくね。」  オレより先に、親父が答えた。  すると未来は、 「小学生じゃなかったんだ…」 そう小さく呟いた。  小学生?オレのことか?みくはオレのことなにも聞かされていなかったのか…? 「小学生…?そんなこと一言も言ってないじゃない」  美和さんは笑いながら未来に向かって言った。  オレは正直『ちゃんと言っててやれよ』って思った。だけど口に出して言うのはやめた。  俯いたままずっと立ってる未来が可哀想になったオレは、 「早く座ってよ、未来」  できるだけの笑顔でそう催促した。  すると未来は何を勘違いしたのか、 「あ、はい…宜しくお願いします…」  まさかの敬語でオレに挨拶をしてきた。  小さな手をギュッと握りしめて、顔を真っ赤に赤らめる。  そんな未来の、焦る姿がかわいくて、 恥ずかしそうに俯く姿も、正にオレの理想だった。  チラチラとオレを見る初々しい感じが、またたまらなく、愛おしく感じた。  未来の全てがオレの理想そのもので、 オレは、初めて会えた嬉しい気持ちより、自分を自制できるのか、不安になった__。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加